4-2 女神とバトル

 女神のいる天界に辿り着くと、そこには地上の聖都にある大神殿によく似た建物があった。

 ここには神がいるので、本当の意味での神殿と言っていいだろう。


 無駄に光り輝いていて、神々しさをアピールしている。

 それがただのLEDの光に見えてしまうのは、俺だけだろうか?


 クリスマス辺りだと、見ていて綺麗と思うかもしれない。

 それ以外の時期は、単に鬱陶しく感じるかな。



「ここより先は、我らがの領域。神ならざる者が訪れてよい場所ではない」


 そんな神殿の入り口には、神のしもべである2体の天使がいて、聖槍を構えて俺たちの行く手を遮った。



しもべごときが、道を遮るな」


 面倒なので神殺しの神剣で一閃し、天使どもを真っ二つにした。



 この剣は親父相手にはたいして役に立たないが、ちゃんと神を切ることができる。

 その力の前では、一介の天使など、紙切れ同然の脆さで切り殺せる。


 音もなく天使が崩れ去り、光の粒子となって消え去る。


 邪魔者がいなくなったので、俺とイクスは大神殿の中へ進んだ。




 そして神殿の中には、数多くの天使がいた。


 床の上に立っている者から、白い羽をはためかせて、空中に浮かんでいる者までいろいろ。


 うちの国だと、天使は全て堕天したせいで黒い羽をしている。

 なので、白い羽の天使が大量にいる光景は、ちょっと珍しい。


 天使たちは、一様に俺たちを感情のない目で睥睨してくる。

 まるでガラスのように感情のない目。

 嬉しさや喜びが皆無なだけでなく、先ほど奴らの同類を切り殺したが、そのことに怒りや憎しみなんてものを、まるで感じてない目だ。


 その中から1体、大天使格の力を放つ天使が進み出てきた。



「先ほどの者達の御無礼をお許しください。

 我がより、案内をせよと命を受けました。

 主の身許までご案内いたしますので、私の後に続いてください」


 大天使の言葉に、俺は首を縦に動かして同意する。


 そのまま無言で、大天使の案内を受け、俺たちは神殿の奥へ通された。



 そうして、神の御座に座る存在と対面を果たす。


「ようこそ、異界からの者たち。私は女神、名はありません」


 自己紹介をする女神。

 地球の神々だと、オーディンやゼウス、ユピテル、天照、シヴァ、バアルなどなど、名前を持つ神が存在しているが、一方で名前を持たない神もいる。


 女神は、名前がない側の神だ。


「エクシード・ノヴァ・リベリオだ」


「イクシオン・ノヴァ・リベリオです」


 その女神に、俺たちも名乗り返す。

 神を前にして、最低限の礼儀というやつだ。



 それから女神は俺のことなどガン無視で、イクスの方へ視線を向けた。


「そうですか。

 それで、あなたは何用で我が神域へ足を踏み入れたのでしょうか?

 私が異界より呼び出した勇者よ」


 女神は、イクスのことを勇者と呼んだ。

 そして今のセリフで、この女神が、俺たちを異世界から勇者召喚した、主犯だと名乗ったことになる。


 異世界からの勇者召喚なんて芸当は、ただの人間に出来る技ではなく、そこには大なり小なり神が関わっていなければならない。

 だから、最初からこいつが召喚の主犯であることは分かっていた。


 しかし、今こいつは物凄く重要なことを言った。

 勇者召喚されたのは、やっぱりイクスだったのだ。



「イクス、お前が勇者様だそうだぞ。よかったな」


 その事実を知れただけで、ここに来た価値がある。



「やっぱり俺は、ただの巻き込まれに過ぎなかったな。

 でも、兄としては心配になるぞ。

 今はうまく擬態しているようだが、お前が本当は頭のおかしい変態だったなんて」



 俺はただの巻き込まれで、変態勇者とは全く関係ない。

 俺の知る2人の勇者は、頭のおかしい変態だからな。


 しかし、まさかイクスが同類だったとは。

 親父の血が罪深すぎるせいで、弟にも変な性癖があるんだな。

 そんな様子を見せたことが一度もなかったから、気づかなかったが……



「兄さん、怒るよ!」


 イクスが背景から、ゴゴゴッと、音が出そうなほど威圧してくる。


 でも、睨んできたところで、ちっとも怖くない。

 むしろ、怒っている様子が健気に見えてしまう。


 やっぱり、こいつの性別女で合ってるんじゃないか?


「凄く失礼なこと、考えてるでしょう」


「やっぱりわかるか。お前って、睨むとますます女にしか見えなくなるぞ」


「ウグッ」


 お、イクスにダメージが入った。


 ケタケタケタ。

 面白くて、笑っちまうな。



「酷いよ、兄さん。笑うことないでしょう」


「仕方ないだろう、事実なんだから。プー、クスクス」


 いやー、面白いねぇ。弟を弄るのは。


「ゴホン、女神様の御前です」


 ただ、俺たちが遊び過ぎたせいか、この場で控えている大天使が咳払いをした。



 へーへー、真面目君だこと。




 仕方ないので、女神との話に戻るか。


「じゃあ、本題に戻るか。

 女神、あんたは俺たちを不当にも異世界召喚して、この世界へと連れてきた。これは拉致だ。

 俺たちの世界に対しての、宣戦布告と受け取っていいな」


「……」


 だが、女神は俺の方に視線を向けることがなければ、声すら聞こえていないという態度。


「兄さんの質問に答えてくれないのですか?」


 かわりにイクスが尋ねる。


「当然です、我が勇者イクシオン。

 あなたは天使すら凌駕する聖力を有し、魔族相手に戦うにはまさに適材。

 あなたの問いであれば、答えて上げます。

 ですが、そこにいる者は神でなければ、私が必要として呼び出した者でもない」


 この女神、本当に俺のことをガン無視だな。



 もっとも、あの勇者召喚の対象は、本当にイクスだけだった。

 俺はあの女秘書から逃げる目的で、イクスの召喚にわざと便乗して、この世界に一緒に飛ばされた。

 自爆回避のためにだ。



 なので、女神にとって俺と言う存在は、眼中にない邪魔なゴミなのだろう。




 だが、そっちがその気なら、それでいい。


「さすがは女神と呼ばれる存在。神だけあって、随分と傲慢なことだ」


「……」


「やれやれ、これでも俺は一応半神なんだ。

 半分神の誼で、俺の相手も少しはしてくれないかな?」


「……抜かすな。神の存在を貶める、汚れた半端者が。

 我ら神と天使如きが混じった、汚物が」


「やっと相手をしてくれたと思えば、それか。

 もっとも、あんたの言う半端者は、イクスも同じなんだけどな」


 どうしてだろうな、俺が巡り合う女どもは、どいつもこいつも自分のことばっかり考えている身勝手な奴らで、性格激悪だ。

 親父とは違った意味で、頭がいかれている。



「イクシオンは私が選んだ、勇者道具です。

 彼が勇者として魔族を殲滅するのは、が定めた運命なのです」


 本当に、頭がいかれてやがる。


 女神にとって自分以下の存在は、相手が半神であっても、ただの道具でしかない。

 神の持つ傲慢さと、愚かさのせいでそう考えるのだろう。



 だがしかし、

「お前の言うことに、とても共感できるな」


 何しろ俺も、こいつと全く同じ考え方をしている。

 ついさっきまで、人間や12魔将を玩具やゲームの駒扱いして、遊んでいたからな。


 やっていることは、女神と全く変わらない。

 自分以下の存在は、全て道具であり、余興の為の道具。

 あるいは、自分が楽をするための道具に過ぎない。


 そして使い終わった道具は、片付けてポイだ。



 神って言うのは、本当にいかれていて、愚かな連中だ。

 半神である俺も含めて。



「そうですか、私の考えを理解しますか。

 ならば、私があなたをどう見ているのかも分かるでしょう。

 邪魔なゴミクズ、お前は私にとって必要のない物だ。消え去れ」


 女神は感情のない目で俺を見ると、次の瞬間、神殿全体が強烈な光を放ち、それが攻撃となって俺に向かってきた。


 魔法ではない。


 神が神たる理由は、神性領域と呼ばれる領域を有しているから。

 それは女神の体中にあり、その周囲にも存在し、そして今いる神殿の全てを覆っている。


 物理的に存在しているわけではないが、しかしそこに確かに存在しているのが、神性領域だ。


 その神性領域から放たれた攻撃は、魔法を超越した超常の攻撃となる。


 この光はあらゆる物体を透過し、物理的な防御を無視し、女神が狙った存在をこの世から抹消する神の一撃となる。

 あらゆる生命も、魔族も、天使であってさえ、この一撃の下には等しく滅び去る。


 例え12魔将たちが、最強の防御魔法を展開したとしても、その魔法を透過して、神が敵と定めたものを消し去る。


 神が、そう定めたため、存在が消え去るのだ。

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