第56話 GW その1

「誠意・・・ねえ」


「ん?何か言いましたか?」


どうやら心の声が漏れてしまっていたらしい。

脇でこれから宿泊するホテルの受付をしている金村がこちらの顔を覗き込むように確認し、首を傾げる。


まあ受付といっても、ハワイリゾートのホテルのお偉いさんが金村のご機嫌を窺うようにペコペコと頭を下げつつ、このホテルの設備などを簡単に説明しているだけなのであるが。


金村はふんふんと真剣な表情で頷いたり相槌を打ったりしていたが、内容はほぼほぼ理解していないように見える。


てか最高責任者がせっかく説明して下さっている途中に、他のことを考えている俺も大概であるが。


「いいや、何でもない」


俺が小声で呟き、オーナーに視線を戻すと、金村もそれに習ってまた形だけの相槌を始めた。



黒服、もとい黒田(ついさきほど金村に訊いた)が言う誠意とは、普通に考えれば金村以外の六人と別れろということだろう。


そうすれば、金村を悲しませずにかつ七股の事実を無くすことが出来る。


本来ならば、そうすることが正しいのだろう。


けれど、俺もここまで半端な思いで七股をしてきたわけでは無い。

急に「別れろ」と言われて別れられるほど、彼女たちに対する気持ちは決して弱くない。


もう詰みなのは分かっている。


けれど、何とか他に抗える手段は残されていないか・・・。


そう模索しているうちに、いつの間にかオーナーの話が終わっていたらしく、ニコニコしながら金村が「行きましょうか」と腕を引っ張って先導してくれた。


そうだ。今は金村と一緒に居るんだ。

彼女の前で迷っている姿を見せることさえも、許されない。


俺は表情を引き締め、彼女に向き直る。


「で、部屋は何階にあるって?」


「さあ。よく聞いてませんでしたわ」


いやいや、やっぱりかい。


俺もよく中学校の頃、先生に「お前の『はい』は信用ならない」と言われたりしていたが、ここまで症状はひどくなかったぞ。


「あ、その代わり、これならきちんと受け取りましたわ!」


すると金村は一枚のキーカードをポケットから取り出した。


なんだ、ちゃんとキーカードに部屋番号が記載されてるじゃないか。なら安心だな。


「それにしてもこのカード、何に使うんでしょうね。一枚だけじゃ、ババ抜きもデュエルも出来ないし・・・。この造りの丈夫さから、スーパーレアだと思ったのですけれど。・・・」


「いや、それは部屋の鍵を開ける用のカードだからトランプは出来ないしスーパーレアだからといってそんな丈夫な造りになったりもしないぞ。てか、キーケースは知らないくせにデュエルは知ってるんかい。だから、一枚でも力を発揮できるから大丈夫」


・・・って、一枚?


「金村」


「はい?もしかして、あのお髭の方のポイントカードでしたかしら?」


「いや、あの人オーナーだし、ポイントカードでもないんだけれど。一枚しか、貰わなかったのか?」


「ええ。これは部屋を開けるための鍵なのでしょう?だったら一枚で充分なんじゃありませんか?」


「だとしたら、俺と金村の二人で一部屋を使うことになるんだけれど・・」


「それが何か問題でも?」


「だって、ほら。一応男と女だし」


「今更何をおっしゃっているのですか?私たち、恋人同士ではありませんか」


「確かに。何の問題もないか」


って、問題大ありなんですけど?!!!


何となく言いくるめられた形になったが、もしこの事実がバレたらここに滞在中の間に策を練るどころか一発で金村との浮気がバレてしまう形になるのですが。


それに夜の方だって、これまで何度も襲い来る性欲を打ち払ってきたというのに。ここに来て、まさかのイベント。


誠意を見せろって、そういうことですか黒田さん。



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彼女七人物語 ~俺の学園ハーレムは、決して生易しいものではない~ 岡ふたば @oka-hutaba

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