第56話【信頼】

 スクラードは突然のフィルの登場に驚いていた。


「な、なんだあいつは?」


 そしてフィルの跡を付けていたザックもオルト達を見て驚きを隠せずにいた。


(あ、あいつ……ガルイードの兵士か? まさかあいつ一人でスクラードをここまで追い詰めたのか……?)


 そしてフィルはすぐさま倒れているドリルに振り向いた。


「ドリルさん! 大丈夫ですか?!」


「まあ、なんとかな……」


 フィルは切断されたドリルの左足を見た。


「くっ…………」


 そして怒りの表情でスクラードを睨み付けた。


「貴様……」


 スクラードはフィルを警戒し構えた。


「許さんぞ!!」


 そして次の瞬間、フィルは全身からアークを放出させスクラードへと突っ込んだ。


「チッ!!」


 スクラードはフィルへと数発オームを放ったが、フィルはそれを躱しながらもスクラードへと迫った 。


「おおおお!!」


 フィルは剣をスクラードへと振り下ろした。スクラードはそれを弾くとすぐさま横なぎに剣を振った。


 するとフィルは地面に手を当て風を起こすと、上昇気流に乗りスクラードの剣を避け、上空から剣を振り降ろした。スクラードはそれを剣で受けた。


「ハヴィング!!」


「?! グヌウウン!!」


 スクラードの受けた剣は急激に重くなり、スクラードの両足が地面にめり込んだ。


「カアアアアア!!」


 スクラードは口からオームを吐き出した。しかしフィルはそれを躱し後ろへ回り込むと、スクラードの胴へと剣を振った。


 スクラードもそれを躱すと距離を取ったが、すぐさまフィルは追いかけた。


 そして両者は剣激戦を繰り広げた。


 そんな中、オルトはドリルの元へ行くと声を掛けた。


「あいつやるじゃない、大分オームを消費してるとはいえ、あの兇獣きょじゅうと互角にやり合ってるよ」


「そうですねぇ……誰かさんと違って統率力もあるみたいだし」


 オルトはドリルを見ずに遠くを見て答えた。


「おいおいドリル、俺だって統率くらい出来るぞ」


「部下をあんな兇獣きょじゅうの元へ送り出しといて自分は酒飲みに行っちゃう人がすか?」


「おいおいドリル、なんだかんだ言ってなにかあればいつも助けに来ているじゃないか」


「俺……足ちょん切れてますけど……」


「おいおいドリル、効き足じゃなくてよかったじゃないか」


 その時、シズが目を覚ました。


「う、うう……フィ、フィル……? 来てくれたのか……」


 シズはオルトに気付かなかった。


「おいおい、ドリル…………」


 その時、フィルがスクラードの太ももを切った。しかしスクラードも左拳でフィルを殴りつけ、フィルは腕で防ぐも吹き飛ばされた。


 それを見たオルトはフィルへと声を掛けた。


「いいぞフィルー!! その調子だ!! そのまま倒しちまえ!!」


 それを聞いたフィルは少しムッとした表情でオルトへ叫んだ。


「オルト隊長!! ゲームじゃないんです!! 加勢してください!! 確実に倒すんです!!」


 それを聞いたオルトは少し驚いた表情でドリルに問いかけた。


「あいつ……折角の手柄なのに…………いらないの?」


 ドリルは少し笑って答えた。


「あいつは……誰よりも軍人ですよ……自分の力の誇示や手柄より……なによりも軍が勝つことを優先している」


「軍の……勝利……ふぅーん……」


 オルトも少し考え笑うと、フィルの元へと向かい二人は肩を並べた。


「んじゃあ黄金タッグでやっちゃいますか!!」


 二人は構えた。


「グヌゥゥゥ……」


(あの男だけならず……こんな小僧まで出てくるとは……まずい……まずいぞ……)


 するとスクラードはオームを連弾で放った。


 オームは二人の手前や横で爆発し、それを見たオルトは呟いた。


「オイオイ、どこ狙ってんだ? やけになったか?」


 辺りは爆風で土誇りにまみれ、フィルはその中で何かに気付いた。


「はっ!? くそっ!!  ハイウィンド!!」


 フィルは突風を起こし、土誇りを消し去った。するとそこにスクラードの姿は無かった。


「えっ!?」


 オルトはそれを見て驚いた。


「うをおおお!! 逃げられたー!! どうしようどうしよう!!」


 慌てふためいたオルトだったが、すぐに落ち着きを取り戻した。


「まあでも、これでキリザミアの国王は助けられるし、任務は完了できるからいっか」


 するとフィルが叫んだ。


「駄目です!! ここで奴を逃したら、また回復して暴れ出す!! それに!! ここで倒さなくては死んでいった仲間達も報われない!!」


「でもそんなこと言ったって、どこへ逃げたんだか……オームも感じないし……」


「逃げた方向は分かります……」


「え? そうなの?」


「はい……」

( ボウル……)


 フィルは東南の方向を見上げた。


「隊長! こっちです!!」


 フィルは走り出し、オルトもそれに次いだ。





 ――東南


 一方、一部始終を俯瞰していたボウルは、スクラードが自分たちの方へ逃げてきているのも見えていた。


「く、来るぞ!!」


 バッジは震えた声でボウルへと声を掛けた。


「で、でもあんな奴……俺らでどうにかなるのかよ?」


「やるしかない……ここであいつを逃がすわけにはいかない……」


「で、でも……」


 するとパウチが呟いた。


「や、やるしかない、なんの為にフィルがここを俺達に任せたのか……ここでやらなきゃ全てが台無しになる……」


 ボウルは二人に声を掛けた。


「パウチの言う通りだ、何も倒さなくてもいい、後ろからすぐ隊長達が来てくれている……少しだけ、一瞬だけでも良いから足止め出来れば良いんだ!!」


 ボウルは迫りくるスクラードの姿を見て少し考えた。


「バッジ、パウチ……」


 そして二人に何か話すと三人はスクラードの元へと向かった。


 スクラードは胸の傷を押さえながらも必死に走っていた。


(に、人間の分際で……あんな奴がいるとは……くそぉ……随分とオームを消費しちまった……早く兇獣きょじゅうを食ってオームを補充しなくては……)


 その時、前からボウルがスクラードへと剣を振り上げ迫ってきた。


「な!? なんだあいつは!?」


「うをおおおおお!!!!」


 ボウルはスクラードの右前方から飛びかかった。


「チイッ!!」


 するとスクラードは立ち止まることなくそのまま裏拳でボウルを殴り飛ばした。


「ぐはあ!!」


「雑魚が!! 邪魔だ!!」


 しかしボウルが吹き飛ばされた先にはバッジとパウチが控えており、ボウルを受け止めると両腕にアークを込め、スクラードの元へと投げ返した。


「うをおおおお!!!!」


「!!??」


 スカールは弾き飛ばしたと思っていたボウルが再び眼前へと迫っていることに理解が追い付かず一瞬動揺した。


「おおおおおおお!!!!」


 ボウルはその隙きに剣をスカールの肩に突き刺した。


「ウガアアアア!!!!」


 全てはボウルの作戦通りであった。


 武器を装備していない右前方へと仕掛ければ、逃げる為に立ち止まりたくないスカールが弾き返す以外の選択肢を取ることは無いと読んでいた。さらには弾き返す方向まで予測し、バッジとパウチに受け止めたらすぐに投げ返すように指示をしていたのであった。


 虚を突かれたスカールは肩に剣を刺され、勢いよく転がり倒れた。


「グラアアアア!!!!」


 バッジとパウチは歓喜した。


「やったあ!!」


 するとすぐさまスカールは立ち上がった。


「グソガアアアアア!!!!」


 スカールはバッジとパウチへと、広範囲のオームを放った。


「うわああああ!!」


 二人はオームによって吹き飛ばされた。


「こんのおおお……」


 そしてスカールはボウルの方を向くと右手にオームを溜めた。


「ガアアアア!!!!」


 そして倒れているボウルへとオームを投げた。


 オームは大爆発を起こし、辺りに土誇りをまき散らした。


「ハアハアハア……!!??」


 すると晴れた土誇りの中から、ボウルの前で剣を構えるフィルが現れた。


「グウウゥゥ……!!」


 そしてフィルはボウルに声を掛けた。


「よくやってくれた、さすがだボウル……!!」


「フィ、フィル……」


 続いてオルトも現れた。


「あらあら、絶体絶命だねえ」


「グウッ!!」


 そして立ち上がろうとするボウルを見ると、フィルが声を掛けた。


「ボウル、無理をするな! あとは俺とオルト隊長に任せるんだ!」


「じ、冗談じゃない……コストやフィスの仇……あいつらの無念を晴らす!!」


 ボウルは剣を構えた。


 先程吹き飛ばされたバッジとパウチも立ち上がり剣を構えていた。


 それを見たフィルも何も言わず剣を構えた。


「グ、グヌウウウ……キ、貴様ら……」


 オルトが一歩前へと出た。


「観念しな……」


「グ、グヌウウウ……ガアアアアア!!!!」


 スクラードはオルトに飛びかかったが、アークを纏ったオルトの剣によって胴を真っ二つに切り裂かれた。


「うをおおおお!!!!」


 そしてフィルやボウルに次いでバッジとパウチもスクラードを切り裂き、バラバラになりスクラードは倒れた。

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インヘリテンス2 梅太ろう @-umetaro-

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