ショートショート【努力の意味】

kamra

努力の意味

『努力すれば自ずと結果はついてくる』


『努力は必ず報われる』


 そんな言葉をよく耳にする。

 でも、そんなことはあるわけがない。

 私はそう思う。



 

***




 今から2年前、当時中学3年生だった私は、受験目前で毎日勉強漬けの一日を過ごしていた。

 私の志望校は自分の偏差値よりも2つほど偏差値が高い。だから模試で合格判定をもらえるように努力していたつもりだった。

 そんな矢先、自分の偏差値よりも下で、合格判定ももらっていたすべり止めの私立高校に私は不合格になった。

 親は私を責めた。


「やっぱり私立高校をほかにも受けさせるべきだった」


「なんで落ちたの?確約もらってたんでしょ?」


 両親から責められ、私の心はズタボロにされた。


 その後、急遽二次募集をしていた家から近い私立高校を受験し合格。

 どうにかすべり止めの高校を確保することができた。


 ところが、公立高校の出願日を目前に控えたある日、母親から


「志望校、安全圏に入っているところにしたほうがいいんじゃない?」


 と言われた。


「もしそこに落ちたら、自分が行きたいと思ってない私立高校に行くことになるんだよ」


 不合格になった私立高校も急遽受けた私立高校も私が選んだわけではない。

 私が行きたい私立高校がないと言ったら、親が私が当時やっていたスポーツが強い高校を選んできたのだ。

 でも確かに、行きたくない私立高校に行くのは嫌だった。


 だから私は、家から近く、そして最初の模試からずっと安全圏に入っている高校に志望校を変更した。

 この時から私の生活は狂い始めたのかもしれない。




***




 高校に無事合格、入学し、私がやっていたスポーツ、バスケットボール部に入部した。

 同じ新入生には私が小学校時代から知っている子も多かった。

 みんなで切磋琢磨して、頑張れると思っていた。


 でも違った。


 外部コーチは、1か月もするとお気に入りを作り、その子ばかりをアドバイスするようになった。

 機嫌が悪い日などは、メニューだけ伝えて全く練習を見てくれない日も普通にあった。

 どんなに準備などを誰よりもやっても、結局選ばれるのは全然準備もしない、遅刻ばかりする天才者ばかり。


『努力すれば自ずから結果はついてくる』


 こんな名言は、嘘でしかない。


 いつしかそんなことを思うようになっていた。

 それでもいつか選ばれる日が来ることを願って一年を終えた。




***




 二年目になり、先輩が引退し、私は部長になった。

 でも、コーチの私たちの扱いはひどくなる一方だった。


 そのころには部活内の同級生ともうまくやれず、けんかや仲間割れがしょっちゅう起こるようになっていた。

 

 部活内に一人、とびぬけた天才者がいた。

 その子は、勉強もできれば、運動もできる、顔もよければ、芸術もできるといったまさに天才の塊だった。

 ある時、同じ授業の休み時間。

 その子は、教室の前にあるピアノに行き、置いてある楽譜を軽く見た後、その楽譜の合唱曲の伴奏を弾き始めた。

 楽譜を数回見ただけで弾けてしまったのだ。


『努力というものを知らない者』


 まさにこれだ。


 私は、嫌になった。

 その子は部活でエースと呼ばれ、一年のころからレギュラーを取っている。

 全く準備をせず、いつも遅れてくるばかりなのに。


 2年の冬、私は初めて補欠メンバーに選ばれた。

 ようやく努力が報われたのかと思った。

 

 でも違った。

  

 コーチが会場で持っていた紙を見ると、そこに私の名前はなく、先月辞めた後輩の名前が書かれていた。

 つまり私は初めからメンバーに入っておらず、やめてしまった後輩の穴埋めに使われただけだったのだ。


『努力は必ず報われる』


 そんなわけがない。どんなに努力しても結局は才能のあるものが選ばれる。私は損をしてばかりだった。


 


***




 私はやがて努力するのが嫌になった。

 でも、そこで不真面目になったら結局ほかの人と一緒だ。

 そう思って私は認められないとわかっていながら、つづけた。


 ある時、そのことを親に話したことがある。

 

「どうして準備や片づけをしない人ばかりがうまくなるの?」


 親は、


「そんなこと言っても、練習をしっかりやってるからじゃない?」


 といった。


 同じ練習をしているのにどうして私は成長しないのだろう?

 自分のやってることが違うのだろうか。

 だったら先生やほかの子が教えてくれてもいいのではないか。


 そんな考えが毎日頭を巡った。


 


***




 3年生になり、最後の大会。

 結局私は補欠のまま一回も出してもらえずに、引退した。


 努力しても認められなかったのだ。

いや、もしかしたら自分が努力していると思っていただけで本当は努力していなかったのだろうか。

 考えても仕方がない、自分には技術も才能もない。

 天才でもない、ただの凡人。


 進路先も私は落ちることがないであろう安全の大学を選び、合格し、卒業した。


 この3年間、私は何をしたかったのだろう。

 3年間を無駄に過ごした気がした。

 

 もし、もう一度やり直せるなら、私はどうしているだろう。


 きっと、また同じ道を進んでいるだろう。


 私は、天才じゃない、凡人。


 私は、そういう人間だ。

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