第12話 魔法使い
そのあと、おじいさんが、あかどんとみどやんの質問攻めに遭ったのはいうまでもないでしょう。ことの子細は、おじいさんの話だと、こんな感じだったようですよ。
みどやんがリンゴの木から落ちた時、一緒に落ちたリンゴには「森の精霊」が宿っていたのです。そして、落ちた時のショックで、赤いリンゴの色をみどやんに、みどやんの蒼を自分に取り込んでしまいました。つまり、この精霊は自分の意思とは関係なく、うっかり魔法をつかってしまったのです。しばらくして、その精霊は自分がしてしまったことに気づきました。そこで、もとに戻すために、みどやんのいる小川に向かって飛んでいったのですが、途中にいたあかどんにぶつかって、今度はそのショックで、みどやんの蒼をあかどんに、あかどんの紅を自分に取り込んでしまいました。結果、みどやんは赤に、あかどんは蒼に、そして森の精は紅になるという、さらにややこしいことになってしまった…というわけです。
「森の精霊たちは、自分が宿っている場所から離れてしまうと形を保つことが出来なくなって空気のようになってしまう。そこでもう一度、もともと木になっていたリンゴに乗り移って、なんとかしようとしてみたが、かえって木から離れてしまったために自分では、もうどうすることも出来なくなってしまったのじゃ。」
「でも、なんでリンゴの実に森の精がいたんだろう?そのとき僕は他のリンゴの実を一つ食べたんですよ。そこには、精霊はいなかったんですか?」
「精霊というのは、わしらとは違う世界に住んでいるんじゃ。だから、たまたま、この精霊は何かの約束を破って、この世界に紛れ込んでしまった『いたずらぼうず』か『おてんば娘』と言ったところかな。そんな、滅多に出てこない精霊に出くわすこと自体が奇跡に近いと言えるかもしれんな、みどやん。」
「だけど、おじいさんはなぜ、そんな精霊たちを見えるようにしたり、話をしたりすることができるの?それと、なんで精霊がおじいさんと色違いだったり…そもそも、お酒の入れ物から出てきたおじいさんそっくりのあれ…あれはいったい何なの?」
「魔法じゃよ。魔術とも言うがな。必要な道具と、それによって行う術式や儀式そして呪文もしくは詩文があればできる。が、使えるようになるには厳しい修行を積まねばならんがな。詳しいことは…知らんほうがいいじゃろうな。そうそう、世の中、知らないほうがいいこともたくさんあるからのぉ。なぁ、あかどん。はっはっは。」
あかどんもみどやんも、本当はおじいさんの魔法についてもっと知りたいと思いましたが、難しそうなので、もうそれ以上聞くのはやめることにしました。それよりも、「もとに戻してもらってありがとう」という気持ちのほうが大きかったので、二匹は、おじいさんに何度も何度もお礼を言いました。おじいさんは、というと…。
「さぁ、帰ってお茶にでもしようかの。窯で焼き菓子でも作ろうか。いっしょにどうじゃ?」
どう見ても魔法使いには見えない、優しいアナグマのおじいさんなのでした。
(おしまい)
紅と蒼のキツネとタヌキ 私之若夜 @shino-waka
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