バ美肉TSおじさんの受難、チャンネル登録者数1,000万人への道

冷凍螽斯

バ美肉TSおじさんの受難


「夢じゃない?どうしよ、これ……」


 食い入るように見つめた鏡には、アニメチックなコスチュームに身を包んだ美少女が映っていた。身体を動かすたびに艶のある淡いピンクの髪がゆらゆらと動く。

 顔にも身体にも一切のスキは無い。伝手で高名なデザイナーに頼み込んだからだ。


「あーあー!こんばんはっ!安里あざとエリルでーすっ!おっさんでーす!……ボイスチェンジャー無しでこの声とかやばいなー」


 何年も訓練して、機材を揃え、調整にも手間かけ、それでも満足とはいかず改善中だったキャラクターとしての「声」。それが今は地声として出せてしまう。しかも不自然さが消えて透明感が増していた。

 とはいえ、かけた努力やコストを考えると素直には喜べない。別に女になりたくてやっていた訳じゃないし。


「このスカート実際履くとこんな……痴女じゃん」


 見慣れた衣装も現実で着るとなれば違いすぎる。しかも現実で、自分自身が着るとなれば。

 薄っぺらい布切れをめくり上げると可愛い柄の下着が覗いた。見られてもいいデザインで作られているのでそこまで恥ずかしくないが、あるべきものがなくなっているのは一目でわかった。


「……って、冷静に考えたらヤバいんじゃないか」


 心のどこかで望んでなかったとは言わないが、冷静に考えたらとてもヤバイ。

『中身はおっさんですw』で売ってたのが本物になったら売りがなくなってしまう。

 あざといキャラなので『おっさん』という免罪符がなくなると、女性リスナーから反感買いそうでそれが一番ヤバイ気がした。まあ、僕のリスナーに女性なんてほとんどいないのだが。


「でもこんなの言わなきゃバレないよな?」


 アバターを使う動画配信はこういう時に助かる。友人達に口裏合わせをしてもらえればバレることはないはず。


「困っているようだな!」

「わっ!?」


 どこから入ってきたのか、目の前にいきなり銀色の鳥が現れた。最初は何だかわからなかったがよく見るとカラスの形をしている。銀のカラスはPCデスクの上にちょこんと乗ると、流暢に人間の言葉を喋り出す。


「オレはクロウディオス。賢くてハンサムな神の使いだ」

「カラスが喋った……」

「喋る鳥なんていくらでもいるだろ。もっともあいつらに出来るのは上っ面の真似だけだがな」


 得意げなカラスの態度に少しイラッと来たが、今の狂った状況の説明ができそうなのはコイツしかいなかった。


「……僕がこの姿になったのは、お前のせいだったりする?」

「そこの機械の中にちょうどいい設計図があったから使わせてもらった。細部はこっちで補完しておいてやったぞ。ありがたく思え」


 僕のPCを見ながらカラスはサラッと言ってのける。本当なら3Dプリンターどころじゃない。


「すごすぎ……ってそうじゃない!早く元に戻せ!編集残ってるんだぞ!」

「戻してもいいが、今戻ると後悔するぞ」

「はぁ?」


 突然、爆弾でも落ちたかと思うほどの音がして家がぐらぐらと揺れた。立っていられなくなって床に這いつくばり、PCデスクの下に転がり込む。世界の終わりのような騒音の中であらゆるものが床に倒れて散らばった。壁の亀裂が一気に広がりパラパラと破片が落ちてくる。このままここにいたら生き埋め間違いなしだ。


「今元に戻ったら死ぬが、どうする?」

「ななな何でもするから助けてっ!!」

「契約成立な。条件が満たされる時までお前はボスのシモベだ」


 かろうじて耐えていた天井が崩れ落ちてくる。梁に押し潰されて死ぬ自分を思い浮かべて僕は目を閉じた。


「いたっ!?」


 頭にヒット。衝撃は間違いなく。でも何故かあんまり痛くない。軽かったのかと思いきや、足元に落ちた梁は重々しい音を立ててドスンと床を突き破った。こんなものが当たれば人間の頭なんてスイカ割りのスイカになりそうなのに、触った感じ頭蓋骨は無事だ。血の一滴も出てない。


「……あれ?」

「ボサッとするな!外に出ないと生き埋めだぞ!ついてこい!」


 気付くと目の前に先ほどのカラスがいた。それに導かれて家の外へ駆け出す。途中で何度も瓦礫を食らったが段ボールか発泡スチロールのようで、手足が折れるでも首が折れるでもなく、無事に家の外に出ることが出来た。


「はあっ、はあっ、はあっ、い、生きてる……僕生きてるよ……」


 轟音、振動、立ち上る煙。鳴り響くサイレンと人々の悲鳴。町は見渡す限り瓦礫の山に変わっていた。どれだけの大地震だったのか想像もつかない。


「そんな、家が……町が……」

「ギリギリだったな」

「へぅ?」


 クロウディオスの声に振り返るとわが家はメチャクチャに壊れていた。この一帯だけ揺れが激しかったらしい。


「あああっ!?機材がぁっ!?」


 総額で100万円を楽に超える機材がオシャカだ。頭を抱えてへたり込む僕の頭をクロウディオスがクチバシで小突いてきた。軽く小突かれただけなのに梁の直撃を食らった時より痛い。


「あいったぁっ!?」

「ボーッとするな。契約した以上お前はボスのシモベ、つまり俺の後輩ってことになる。こき使ってやるから覚悟しろ」

「た、確かに何でもするとは言ったけど……あんな状況で結ばされた契約なんて無効じゃないの?」

「人間の法なんて知るか。嫌ならとっとと契約を完了するかボスと交渉するんだな」

「そういやお前のボスって……あいたっ!?痛い痛いっ!!」

「先輩に向かってその口の利き方はなんだ」


 ハスキーな声と共にクチバシの雨が頭に突き刺さる。半端じゃなく痛い。これに比べれば瓦礫の直撃なんて雨粒だ。


「痛い痛い!!ごめんなさい!許してくださいクロ、クロウディオス先輩っ!」

「分かればよし。細かい説明の前に腹ごしらえしよう。適当な店に連れていけ」

「あの……言いにくいんですけどこの格好じゃ……」


 サイフもスマホも持ち出せなかったし、今の僕の持ち物はこのコスプレ衣装だけ。いくら見た目が美少女でもおっさんにはキツすぎる。


「仕方ない奴だ。とっておきを見せてやる」


 クロウディオス先輩は空中に飛び上がって頭上をくるくると回り始める。するとどういうわけか、瓦礫となった町が逆再生のように元に戻っていくではないか。


「えっ……ええっ!?」


 すっかり元通りになった街並みを見て僕は開いた口がふさがらなかった。呆然とする僕の肩をクロウディオス先輩が止まり木にする。爪が食い込んでちょっと痛い。


「これで問題ないな」

「せ、先輩……これは……」

「伊達に神の使いを名乗ってないぞ」

「す、すごい!先輩って本当に神の使いなんですね!」

「敬意を払えよ。ちなみにこういう事には対価が必要で、お前のノルマに上乗せされるからな」

「……はい?」

「心配するな。地味に任務をこなしてればいずれ終わる」

「なにそれ聞いてない!聞いてないよ!?」

「今言ったからな」

「酷すぎる!!こんなの詐欺だっ!!」

「そんなことより腹が減った。飯に行くぞエリル。もちろんお前のおごりでな」

「先輩、それキャラの名前で本名は……あいたっ!?突かないで!」

「早く行け。今のオレは寿司が食いたい気分だ」


 状況に頭が追い付かない。なぜ、どうしてこうなった。どうしてこんなことになった。バ美肉なんて業の深いことをやっていたからか。しかしのんびり頭を整理できるような暇は先輩が許してくれない。僕は考えることを放棄して家に駆け戻った。








「クロ先輩……どれだけ食べるんですか」

「勝手に短縮するな。まあ今は気分がいいから許してやる」


 回転寿司屋の店内、僕のテーブルの前には皿が積み上がっている。それも高い皿ばかりだ。カラスの胃袋ってこんなに食えるほど大きかったっけ。


「そんなに食べたら重くて飛べなくなりますよ?」

「先輩への敬意が足りんぞ」

「またパワハラですか?神の下では全ての人は平等じゃなかったんですか?」

「何処ぞの誰かと勘違いするな。うちのボスは一度もそんなこと言ってないからな」

「はあ、つまりそっちの神様じゃないんですね」

「さてどこから教えたもんかな。記憶転送なら世話ないんだが、それだとお前の人格が変わっちまうから少しずつ教えていく」

「はあ」


 クロ先輩の話によれば、僕の上司となった神はアザトーシスと言い、すごい力を持っていて善悪も決まった形もなく、この宇宙が始まる前からずっと寝ているらしい。生き物のそれとは意味が違うとのことだが。

 ちなみに僕のこのキャラクターの名前は安里あざとエリル。響きは似ている。言われてみれば何かしらの縁を感じなくもない。


「お前の魂はボスと縁がある。そして今日、本来ならお前が死ぬことをボスは知っていた」

「それじゃあボスは、僕を助けるために先輩を送ってくれたんですか?」

「うちのボスのことだ。助けるためってのはないだろうよ。都合の良い魂がフリーになるチャンス、邪魔が入る前に確保したかったんだろ。お前みたいな魂は色々と買い手が多いからな。」

「ええ……」

「うちのボスは強いが、こっちの世界にはほとんど手が出せない。そこを何とかするためにはボスと縁が深い魂が必要なんだ。うるさい連中の隙をついて魂との縁を深くしていくのにも、人間じゃ想像つかんほどの時間がかかってる」


 もっともボスにとって時間なんて無意味だけどな、とクロ先輩は続けた。


「それで僕は何をすれば?契約書すら見せてもらってないんですけど」

「お前の最初の仕事は……」


 ごくり。


「有名動画サイトの「ユーアンドアイチューブ」ってのがあるよな。そこでチャンネル登録者1,000万人を達成することだ」

「……は?」

「聞こえなかったのか?ユーアンドアイチューブでチャンネル登録者1,000万人を達成するんだ」

「いえ、聞こえてますけど……え?本当に?」

「ウソなんて言うか。お前の仕事はその身体で人間どもを魅了し、ユーアンドアイチューブを制するんだ」

「あの、ボスの力なら人間なんて簡単に洗脳できるんじゃ?」

「そういうのは禁止だ。それに奇跡を使えばお前のノルマが増えるぞ?多少の手助けはしてやるが人を集めるのは自分でやるんだ」

「100万人だって難しいって知ってますか?1,000万人なんて絶対無理ですよ!どれだけ非常識な数字だと思ってるんですか!」

「その身体は頑丈だから多少無茶しても壊れたりせん。いけるいける」

「ははっ、水着でエベレスト無酸素登頂でもさせるつもりで?」

「いいなそれ。やるぞ」


 コンビニに買い物に行くような口調だったので冗談を言ったのかと思った。しかしクロ先輩の様子はいたって真剣だった。


「僕、山登りなんて一度もやったことないんですよ!?なのにいきなりエベレスト!?『山を舐めるな』って山ガチ勢にボロクソに叩かれますよ!?」

「何とかなるだろ。カメラマンは俺がやってやる」

「待って待って!ちょっと待って!行くの決定なんですか!?」

「だからそう言ってるだろ」

「いやいやいや、待ってください!ゲーム実況や雑談、歌とかの予定があるんです!コラボの予定だって!」

「じゃあそれ片付いたら行くぞ。そんな地味なことやってたら10年かけても1,000万人なんて達成できんからな」

「じ、地味って……」


 こんなの遠回しな自殺だ。この筋書きを書いた邪神はシャ〇でもやっているのか。いや、邪神ならそんなものなのか。








 そして2か月後。


 僕は雲のはるか上を歩いていた。見上げる先は地上最高峰、8,848メートルの頂だ。気温はマイナス40度。吹き付ける強風のせいで体感温度はマイナス50度を下回る。酸素は地上の1/3しかない。


 身体は水着。なのにブーツとアイゼンを履いて分厚い手袋をつけている。なんなんだろうこれは。意味が分からない。誰か教えてほしい。


 時折気が遠くなって死んだおばあちゃんが川の向こうで手を振っている幻が見えるが、その都度クロ先輩に頭を突っつかれて目が覚めるの繰り返しだ。


「さ、さささ寒いぃぃぃぃーーー……」

「(お嬢ちゃんが何で生きてるのか不思議でしょうがないよ。とても行者サドゥーには見えんし)」


 雇ったガイドが何か言っている。現地の言葉が分からないのでクロ先輩に通訳を頼んだ。クロ先輩は優秀なのでありとあらゆる言葉を話せるのだ。


「ななななんて言ってるんですかあぁぁぁぁ!?」

「元気なお嬢ちゃんだってさ」

「ははははいぃぃぃー元気ですよおぉぉぉぉ!!」


 骨まで凍りそうな寒さ。薄い空気。疲労はたまる一方。あまりにも寒すぎて自分でも訳が分からないテンションになっている。クロ先輩が言った通りこの身体は頑丈だったが、寒さや疲労がないってわけじゃない。


「ククククロ先輩ぃぃぃ、ちゃんと撮ってくれてますよねえぇぇぇえ!?」

「撮ってる撮ってる。ばっちりだぞ」

「よおぉぉぉぉっしぃぃっ!!」


 これで撮れてなかったらショック死するかも、いや嘘だ。そんな程度で死ねたらどれだけ楽か。最終キャンプ予定地点までもうすぐと言うところで、天候が悪化するという情報が入った。当然、ガイドは下山を主張する。


「ガイド。お前はもう下山していいぞ」

「クロ先輩、僕らは?」

「行くに決まってるだろ」

「ふふっ、先輩なら絶対そう言うと思ってましたぁっ、あはははは」

「余裕があるな。きっと最高の絵が撮れるぞ。」

「あはははは、楽しみですねー」


 頂上アタックのための最終キャンプを設営して夜が明け──る前にテントが突風で吹き飛ばされた。アンカーとロープで身体を固定していなかったら、こんな少女の身体はあっという間に吹っ飛ばされて岩に叩きつけられていただろう。それでも死ぬ気はあんまりしないが、そんな目にはあいたくない。


「ひいいいいっっっ!!」

「おいエリル。ちゃんと張り付いてないと滑落するぞ」


 そう言うクロ先輩は突風の中でも平然とカメラを回し続けている。


「怖い寒い怖い寒い怖い寒いっ!!怖くて寒いですクロ先輩ぃぃぃっ!!」

「打開策が最初から分かってるんだ。初見のホラーゲームより簡単だろう」

「おおおおおぉぉぉぉっ!ささささすが先輩ぁぁぁぁっ!!」


 悪天候は二日続き、ようやく収まった。


「いい天気だぞエリル。最高の登頂日和だ」

「あ……う……」

「腹ごしらえしたら出発だ。オレ達しかいないから順番待ちもないぞ」

「あ゛い゛……あの、ロープ、解いてください……」

「仕方ない奴だな」


 クロ先輩にアンカーとロープを外してもらい、僕は二日ぶりに食事をすることが出来た。手荷物の類は全部吹っ飛んで何も残っていなかったが、水着の内側に移しておいた食料は無事だった。しかしいくら子供の身体でも、これだけではとても足りない。


「先輩、とても足りません……」

「ちょっと待ってろ」


 クロ先輩はどこかに飛んで行き、少ししたら戻ってきた。口に何かの肉のようなものを咥えている。このあたりに食べ物があるとは思えないが、先輩のことだから何とかしたのだろう。


「凍ってるが食えなくはないぞ」

「おおぉっ!肉なんてすごい!これ、何の肉ですか!?」

「……ヒマラヤタールっていう牛の仲間だ」

「へえ、こんな高いところにも動物っているんですねぇ。なんにせよ肉が食べられるなんて思ってませんでした。ありがとうございます!欲を言えば焼いてから食べたいですけどね、あははっ」


 シャーベットのような肉をかじって何とか元気を取り戻し、頂上へのアタックを試みる。本日は晴天なり。僕とクロ先輩の他に生き物は見当たらない。雪と空が作る白と青のコントラストは例えようもなく美しい。


 そしてついに、僕らは登頂に成功した。360度、視界を遮るものは何もない頂に立つと、感動が津波のように押し寄せてくる。自然と涙が溢れてきて僕は大声で叫んだ。


「やったあぁぁぁぁぁぁっ!!」

「気を抜くんは早いぞ。これから撮影するんだからな」

「ぐすっ……はいっ!でも指の感覚がずっとなくて困っちゃいますよ、あはははっ」


 マイクをつけ、青空をバックに撮影タイムに入る。先輩がいるからドローンなしでも空撮が出来てしまうのだ。カメラも使えるし言葉も強いクロ先輩は本当にすごいヒトだと思う。


「安里エリル!水着でエベレスト無酸素登頂に成功しましたーっ!」

「よしよし。良い笑顔だ。今のお前は最高に輝いてるぞ。チャンネル登録者100万人いけるぞ」

「クロ先輩ぃぃっ!」

「100万人なんてただの通過地点だ。1,000万人目指してどんどん行くぞ!」

「はいぃっ!」


 世界最高峰に自らの足で立ったという経験は、僕の動画配信者としての引き出しを広く大きくしてくれるはずだ。この紅蓮地獄のような寒さも、いずれ愛おしく思える日が来るかもしれない。


「さすが、ボスが見込んだ魂だな」


 クロ先輩は笑っていた。意味が分からなかったが褒められたのは嬉しかった。








 帰国した僕は、安否を気遣ってくれていた友人や家族全員に改めて無事を伝えた。旅の間も可能な限り連絡はしていたが帰国報告は大事だ。


 「しばらく休んでエベレストに登ってくるのでコラボはお断りします」と言ったらみんなすごい勢いで心配してくれたからだ。直接会えた人は多くないが、直接声を交わしたことで安心してくれたようだった。声が微妙に変わったことは「エベレスト登山のせい」と言ったらみんな納得してくれた。TSしたこともそれで通せたら楽なんだけど。


 久々の故郷にホッとしたのもつかの間、僕を待っていたのは長い長い編集作業。でもエベレストでの苦労に比べれば、何よりもリスナーの反応を考えれば苦にはならない。

 紆余曲折の果てに出来上がった動画のタイトルは、「バ美肉おじさんが水着でエベレスト無酸素登頂に成功!」とした。もっともアバターなので、水着だろうが何だろうリスナーには関係ないけど。


 そして、一連のエベレスト動画シリーズが完結し、帰国から1か月が経ったある日のこと。僕は最近感じていた悩みを先輩に打ち明けた。


「クロ先輩。最近、悩みがあるんです」

「何だエリル。次のチャレンジは決めたのか?」

「次は暑いところにしようと……ってそうじゃないんです。エベレスト行ってから友人のバーチャル動画配信者の態度が露骨に変わってしまったんです」

「どういう風に?」

「コラボ企画で一緒すると、今までは年の離れた妹というか子供扱いというか、見た目とロールプレイ通りの扱いをしてくれたんですけど、今はなんて言うか、明らかに引いてるんです」

「ふむ」

「ぶりっ子演技してもまともにつっこんでくれないし、一部の人には敬語を使われるようになっちゃったんです。もしかしたらTSしたことがバレたんじゃないかと不安で」


 家族や特別親しい友人には打ち明けて口止めしておいたが、それ以外には今だに告げられていない。ウソをついている、という罪悪感が日に日に募ってくるのだ。


「そんなことか。今のお前は登録者数200万人超えだから気後れしてるだけだろう。時間がたてば元に戻ってくれるさ」

「ああ、確かにそういうのは分かります。僕もそうだったし」

「だがなエリル。伸びたからって良い気になるなよ?まだ目標の1/5だ。こんなところで足踏みはしてられない。俺はお前ならもっともっと高いところまで行けると信じている」

「はいっ!」


 僕はこれからも冒険系バ美肉動画配信者としての道を突っ走る。契約だからというだけじゃなく今の活動が楽しいからだ。動画配信を始めた頃に考えていたのとは少し方向がずれてしまったけど、これはこれで幸せかもしれない。




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バ美肉TSおじさんの受難、チャンネル登録者数1,000万人への道 冷凍螽斯 @kuironyo

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