Play15☀「帰還」

☀『船出来たねー』


 山羊追いの目の前で、羊飼いが海にイカダを浮かべている。それは以前に乗った物とまるで差異がないもので、一度壊したことを思い出したのか、耐久チェックするかのように羊飼いが一人で乗り込んだ。

 強度に問題がない事を確認した羊飼いは、イカダから降りて満足げに頷いている。

 そうしていると、森の方からゾロゾロと小人達の列が姿を見せた。


✿『連れて来たよー』

♨『おーしじゃあさっさと行こうぜ』

☘『あたしのも海に浮かべて……あ』

☀『ん? どうかしたの?』


 粗雑なイカダの隣に鳥撃ちがヨットを浮かべたのだが、不可思議に動きを止めた。

 そんな鳥撃ちへ、不思議そうに山羊追いが歩み寄ると、万歳を始める。


☘『強化イカダ作ってたの忘れてたーい』

✿『あーそう言えば漂流したときに作ったね』

♨『えっ? じゃあこのイカダ無駄なの!?』

☀『けど船って、持っている人が乗らないと操作出来ないんじゃなかったっけ?』

☘『だっけ。じゃあまあいっか』

✿『あれ? 船でもなんでも人に渡せたよね? なら強化イカダも誰かに渡せば、』

☀『しっ。それだと、ぬるめが馬鹿で間抜けなアホになるから黙っておいてあげて』

♨『お前らだって作るの手伝っただろうが!?』


 山羊追いが爆笑アクションを見せると、羊飼いが憤慨を示すように何度もナイフを振るう。しかし味方間の攻撃には当たり判定がないため、爆笑は止められなかった。

 そんな風にじゃれ合っていると、街守りが連れて来た獣借り達がヨットに近づき、吹き出しを浮かべる。


「このふね のせてくれるのか」


 じっとこちらを見つめてくるのは獣借りの代表のタクだ。それに対して、羊飼いが話しかけに行くも、思った反応は得られずに立ち止まっている。


♨『? ……あ、船に乗ればいいのか』


 何かに気づいたようで、羊飼いが自分のイカダへと乗り込んでいく。

 そして漕ぎ手に回った彼が大きく手を振ると、一人の獣借りがイカダへと招待された。


♨『ヨットの方で6人乗せるで良かったよな?』

☘『うむ。ぬるぬるの車狭いしね』

♨『車じゃなくて船な』

✿『ちなみにぬるって車なに乗ってんの?』

♨『白のアクア』

✿『へー』

♨『振っといて反応薄いのやめろ』


 羊飼いの立つイカダに街守りと羊も飛び乗り、隣では鳥撃ちと山羊追いが乗ったヨットに6人の獣借り達が呼ばれているところだった。

 羊飼いが獣借りを漕ぎ手に選択した事で自然と街守りは舵取りに回り、羊は船の中央で堂々と立っている。山羊追いはまたも漕ぎ手で、鳥撃ちは舵取り。他の6人の獣借りも残った役割を自分達で埋めていった。


☘『乗せたままそこら辺回ったら経験値荒稼ぎ出来そう』

✿『さっき森の中で戦ってたけど普通に強かったよ』

♨『けど海でのポップ数少ないから効率悪くね?』

☀『しかも鳥って弱いくせに倒すの時間かかるしねー』

☘『海を舐めるなよ若造が!』

☀『この海、しょっぱい……!』

♨『船長、お昼が海舐めてます!』

☘『処刑。島流し』

✿『ナイスコンビネーショーン』


 乗組員で満たした二艘の船は同時に出発する。帆がある分、ヨットの方が先行し、それに必死でイカダがついていっていた。

 その航路は、来た道を引き返すように水平線を目指している。

 道中、カモメが襲ってくるも羊や獣借り達などのNPCの活躍によりあっさりと撃退。船の耐久値が減ることもなく、難なく海を渡っていく。

 そうしているとすぐに最初の島が見えてくる。

 すると船に乗っていた獣借り達が軒並み感動したように声を漏らし始め、その声が止まぬうちに二艘の船は港へと辿り着いた。


♨『お、ムービー』


 船から降りる≪ぬるいお昼の黒桜≫メンバー。

 それに続いて、7人の獣借り達も新天地へと足を地に着けるが、そのキョロキョロと周囲を見渡す挙動に先住民達は違和感を抱いていた。

 コソコソと話をしては首を傾げる通行人。興味心による視線が複数向けられる中、その一つが駆け寄ってくる。


「ねえ! この人達は一体誰かな!? ボクは島のタイニーを全員把握しているはずなのに知らないよ!?」


 話拾いのタイニーは、見知った≪ぬるいお昼の黒桜≫に問いかける。しかし無口なプレイヤー達はそれにすぐ応えず、代わりに獣借りの代表が名乗りを上げた。


「わたしたちは けものかりだ」

「獣借り? 聞いた事ないなぁ……。ねえ一体どういうこと?」


 話拾いの瞳はまたこちらへと向く。それに対して、一つしかない選択肢が現れる。


 ——島を見つけた


 4人同時の回答に話拾いの目は更に丸くした。


「島!? どこにあったの!? しかもたった4人で見つけたって言うの!?」


✿『元気だねーこの子』


 溌溂とした話拾いの言及に4人は同時に頷く。するとその食いつきはより一層に増して、彼女は鼻を鳴らしながらに紙束を取り出した。


「それじゃあ詳しく聞かせてもらうよ!?」

 ——序章クリア

 ——≪第二島≫が開拓された!


 話拾いの言葉の直後に画面が暗転し、メッセージが表示される。

 続いてマップが勝手に開かれ、現在地の島に≪第一島≫の表記が増え、その西側の島には≪第二島≫という名づけが行われる。

 マップが閉じると、また話拾いの興奮した姿が映されていた。


「こうしちゃいられない! 第二島の開拓を早速進めよう! 勿論きみたちには手伝ってもらうからね!」


 話拾いが言い残した言葉に、プレイヤー達はお互いに顔を見合わせる。


☘『よし寝よう』

♨『仕事を斡旋されながらも揺らがないストロングスタイル』

☀『まーもう大分遅い時間だしね』

✿『うん、うちも今日は落ちたいかな』


 すぐに4人はログアウトした。





——TIPS——

【助っ人】

・ストーリーの進行上、戦闘可能なNPCが同行する場合、そのNPCが戦闘なども担ってくれる。船に乗る際も各自の役割についてくれて、コネクションが不足している状態でも船を出すことが可能。

・ストーリー進行時の推定レベルよりも高めに設定されている。

・助っ人が戦闘で獣を倒した際に入る経験値は本来よりも少なく、ストーリーによっては進行を妨げないために進路を逸れたら引き戻されたり、そもそもそのNPCが付いてこなかったりする場合がある。

・同盟行動中で複数メンバーによるストーリー進行におけるNPCがついていくのは、≪連れていく≫という選択肢のある会話を行い≪連れていく≫を選んだプレイヤー。後ろに続くそのNPCにもう一度話しかけその場に置いていくのも可能。その場合のNPCは、ストーリーが進行しない限りその場に留まる。何があっても。たとえ地殻変動が起きても話しかけられるのを待っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちいオンプレイ中 落光ふたつ @zwei02

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ