君は私の命になれる?
達見ゆう
二月の回想
二月である。僕ことリョウタは数年前のことを思い出していた。
出会いこそは旅行先の外国であったが、県庁に受かって配属された先に彼女がいた。
周りの人が「彼女は優秀だけどヤバい人だから」と忠告されたが、すでに知っている僕には不要な情報だった。
いや、あのときの姉御っぷりに僕が惚れ、連絡先を聞きだし、県庁に入ったと聞いて猛勉強して面接でも彼女のいる県庁を第一希望にしたのだ。
いつかは同じ課へ配属と思っていたから、この予定外の結果は嬉しい誤算でもあった。
確かに彼女は厳しかったが、ヤバいというのはきっとタイでも見せたような行動のことだろうと思った。
確かにクレーマーが来るとウキウキと止めに行こうとするのを課長がコッソリ止めに行っていたから、ここでも似たようなことをして処分ギリギリのラインのことをしていたのだろう。
「あのクレーマー、今月三度目でしょ。竜野さんにカウンターアタック喰らった方がいいと思うけど」
「そうね、それなら正当防衛成り立つし」
というボヤキも聞き逃さなかった。あ、竜野というのは彼女の旧姓だ。
だからか、彼女に浮いた話は聞かなかった。僕に取ってはチャンスでもあるが、ぽっちゃり体型の僕は非モテでもある。
ある時、飲み会の際に聞いてみた。酒の勢いで聞かないと勇気が出ない。
「あの、失礼かと思いますが竜野さんに付き合ってる人はいるのですか」
アッパーパンチを覚悟した質問だったが、彼女の答えは斜め上だった。
「君は私の命になれる?」
「え? は?」
戸惑う僕に彼女は続けた。
「私はな、ヤンキーが多い地域出身で、中学も指折りの荒れた中学でその時代には下火になっていた校内暴力も華やかに行われていた」
「は、はあ」
「美術の授業中に不良が乱入してきてガラス割る授業妨害されてな。やつら、パイプ椅子投げてきたり、美術に使うナイフを奪って投げてくるのだ。友人には伏せさせて、私はナイフを椅子で受けて、投げ返したり、時には黒板消しやチョーク、胸像などを投げて迎撃したりな」
なんつー学校だ。さすがに荒れすぎどころか、紛争地帯だ。
「高校は高校で、フェンスに逃亡防止の松ヤニが塗られていたり、管轄ギリギリの警察がわざわざパトロールしたりな」
ええっと普通の高校だよね? 間違っても少年院では無いよな?
「とにかく、そうやって友人を守りながらハードな人生を送ってきた。私は彼女らの命となってきたが、守られたことはない」
そりゃあ、そんなに強ければ必要ないのでは? と思ったが黙っておこう。
「でもな、思うのだ。私だって一応女性だ。誰かに守られたいという気持ちはある。だから言い寄ってくる人には今の話をして質問するのだ。『私の命になれる?』と。大抵はドン引きするのだが」
確かにドン引きするだろう。少年院暮らしでもないのにバイオレンスな人生だ。強くなるのも仕方ない。それは友人を守りたいという優しさと自分が強くならなければいけない環境だったのだろう。
「ぼ、僕は弱いです。力もありません。でも、相手は倒せないけど、この体型なら盾にはなれますっ!」
すると彼女はプッと吹き出した。
「あははは。そんな答えされたのは初めてだ。タイでもそうだったけど、面白いな、君は」
とりあえず、合格ラインの答えだったようだ。なんかの漫画で人間は最高の遮蔽物だという台詞があったなあ。日本だから銃弾はないが、地震の時の瓦礫の直撃を身代わりになることくらいならできそうだ。
そうして、二月になってチョコレートをもらい、お礼に飲みに誘って気がついたら彼女は僕の最凶の奥さんとなっていたわけだ。
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「なんだ? リョウタ? チョコ見てニヤニヤしてるな。好きなブランドだったか?」
「いや、チョコレートからいろいろ思い出して」
「相変わらず変なやつ」
周りは恐れるのかもしれないけど、やっぱり彼女は僕を大事にしてくれる。
「いただきま……。ユウさん、すっごく苦いけど何これ?」
「リョウタのメタボ対策のためのカカオ99%チョコだ」
「甘味料使用のチョコにしようよ、そこは」
「人工甘味料は砂糖より余計に太るという説もあるから確実性を取ったまでだ」
やはり、ユウさんはドSなのかもしれない。
君は私の命になれる? 達見ゆう @tatsumi-12
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