第5章:戦争の行方
第45話:じゃぁみんな、コレで終わりにするよ
バーラタ共和国三軍統帥本部は、『
Xデー前日、司令官室に出頭した
「フレミング、貴女に群司令の辞令を交付することに躊躇いがないでもありませんが……」
フレミングを応接セットに促しながら、パルティルは柔和な口調で語りかけた。従卒から供された紅茶を一口すすると、パルティルが促す。
「フレミングも、冷めないうちに……」
この部屋でパルティル閣下から頂いたものと言えば、大目玉と滑走路ダッシュ、最近では何やら辞令やら勲章やらももらったけれど、これは一体どうしたものかしら……? 戸惑うフレミングに、パルティル司令官の隣に座ったウェーバー副司令官が、自らも紅茶を口に含みながら解説役を買って出てくれた。
「貴官は群司令に任命された。今や貴官も、我が中部防衛航空軍団の幹部の一人なのだよ、フレミング。いいか? ここで貴官には特別に、
自身がその
「それは?」
つい身を乗り出して聞くフレミングに、ウェーバー副司令官は笑声を以って応えた。
「それはな、司令官閣下の
珍しく冗句を言うウェーバーに戸惑うフレミングの様子を満足そうに眺めながら、パルティルが口を開いた。
「我が国はこのような、芳醇な茶葉を豊富に産する肥沃な大地に恵まれておる。願わくば、子々孫々の代まで伝えたいものだ。そうは思わないか、フレミング?」
「はい」
と答えて紅茶に口をつけたフレミングは、後席に座るマルコーニ先輩を思い出す。それはマルコーニのポニーテールのように、淡く上品な色合いと香りであった。
「とっておきだぞ」
軽く片目を瞑るパルティル司令官の嬉しそうな顔を、フレミングは始めて見る気がした。
「さて、貴官に群司令の責を与えることは私としても忸怩たるものを感じざるを得ないが、今回の作戦の要は貴官の駆る
司令官が何故自分を群司令に任命したのか、その理由は分かったが、そうであればマルコーニ先輩なのではないか、との疑念も頭を過ぎる。そのようなフレミングの思考を察したのか、ウェーバー副司令官が横から口を挟んだ。
「群司令は
パルティル司令官はウェーバー副司令官に軽く目礼した後、フレミングに問う。
「そこで、貴官に改めて問う。000W群司令の任、引き受けてもらえるだろうか?」
先に辞令を渡しておいて今更……ではあるが、これは司令官なりのけじめなのだろう。いや、あるいは校長先生としての優しさ? いずれにせよ、ただ辞令を交付するのではなく、こうして司令官の
「閣下、ありがとうございます。小官は小官の責を全う致します」
「さぁ、冷めないうちに、大佐」
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「いよいよ明日、ですわね」
2段ベッドの下段から、
「うん……」
「フレミー、緊張してますの?」
「緊張というか……」
フレミングは知っていた。今回の作戦では、たとえ成功しても失敗しても、自分の指揮により多くの人間が死ぬことを。自分の指揮ぶりが良ければ多くの敵を殺し、自分の指揮ぶりが悪ければ多くの味方が死ぬ。違いはただそれだけで、いずれにせよ自分が多くの人を殺すのである。これまでの戦いは敵から仕掛けてきたものであったから、フレミングはただ、自分と友人達が生き残るために必死であったに過ぎない。それでも多くの友人が死に、おやっさんを負傷させ、自分自身までが死ぬところであった。しかし、今度はこちらから……
「フレミーちゃんは、優しい子だから……」
フレミングの内心の葛藤を悟ったものか、
「でもね、私はファーレンハイトちゃんの仇を討ちたい!」
珍しく
「そうですわね。亡くなった他の多くの方のためにも、早くこの戦争を終わらせなければ……」
戦争を終わらせるための戦闘とは奇妙なものではあるが、しかし戦争とはそういう類のものなのであろう。政治の延長に過ぎない戦争という代物の度し難いところである。
みんなの優しさが分かる
「そう言えば、マルコーニ先輩は今頃、何を考えているんだろぅ?」
ベンガヴァルの
「自分は1人部屋。
それを聞いた
「マルコーニ先輩って、寝言言うタイプだったっけ?」
翌朝の起床時刻は0200時。『人を殺す』という事実は敢えて考えないことにして、フレミングは目を閉じた。
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Xデー当日。予報通り天候は晴れ。「天気晴朗なれども浪高し」とは誰の言葉であったか。幸いにも浪は穏やかで、『進撃日和』という言葉があれば、まさに今日がその日であったろう。
尤も、恐らくは敵もこの数日のこちらの動きを観測していたものと見える。近日中に大規模反撃があるものと予測し、既にこれの警戒に当たっているようであった。こちらからも、敵艦隊上空に艦載型警戒機や直掩機が多数上がっていることが観測されている。そういうわけで『奇襲日和』という訳にはいかないXデーである。
いくらアクティブステルスがあろうとも、敵艦載機-先の戦闘における撃墜数から残存600程度と推定されていた-を相手に000Wの
海軍第1航空艦隊第203飛行隊に所属するガウリ中尉なぞ、出撃に当たり意気揚々と軽口を叩いていたらしい。
「『ロリポップ中隊』と言ったか? あのカラフルな可愛い子ちゃん達?」
航空宇宙軍広報部の担当者は相当な腕利きらしい。ロリポップ中隊を宣材に、今や軍民挙げての支援を取り付けることに成功していたのである。
「いや、あれは本当は『グラマラス中隊』とか言うらしいぞ?」
同僚のチェトリ中尉が挙げるフレミング中隊の別称を聞いたガウリ中尉は、更に意気盛んにこう言ったという。
「ロリでグラマラスってか? 超ギャップ萌えじゃねぇか、そんなの。オレ達が
今や
000Wも出撃準備に入る。アクティブステルスで北西方面へ3,000km進出の後、全264発の対艦ミサイルを発射。フレミング群司令の直率するロリポップ小隊はその弾着まで現場待機の上ミサイルの誘導に務める一方、残りの44機は即時反転帰投を予定していた。出撃に際しファラデー先輩は中佐に叙され、飛行群副司令として対艦ミサイル装備部隊-3個中隊+2個小隊-の帰路を統率することになっている。またテイラー先輩、マクスウェル先輩もそれぞれ少佐に昇進の上、引き続き各中隊長の任に就く。更にはパパン先輩も少佐に昇進し、対艦ミサイル発射後には臨時中隊長としてフレミング中隊2個小隊を統率することになった。
D-12
「じゃぁみんな、コレで終わりにするよ」
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