第38話:最後は私が責任を取らなくちゃ
司令官室を出た4人の中隊長は揃って
「マクスウェル先輩、私達がD-10からD-12
ベンガヴァルにある3列の
「あぁ、アタシは別に構わないぞ」
従ってフレミングが敢えて断るまでもなくマクスウェルは快諾するが、まぁこれは、フレミングなりの仁義の示し様なのであろう。
3人の先輩達と分かれてから、いや本当は司令官室にいる時から、中隊編成の件がフレミングの頭の中を占めている。再編方針には基本的に3つのパターンが考えられた。補充された4人で新小隊を構成し、既存の2個小隊はそのまま残すパターン。トリチェリ先輩を新小隊の小隊長にして、補充の4人を適宜フレミング小隊とトリチェリ小隊に充当するパターン。そして、ガリレイ先輩を新小隊の隊長にするパターンの3通りである。それぞれ、『新小隊案』、『トリチェリ小隊案』、『ガリレイ小隊案』とでも名付けることができようか。
『新小隊案』の最大のメリットは、既存2小隊に全く手を加える必要がないことである。何しろ、8機で22対0のスコアを挙げたフレミング中隊である。既存2個小隊の連携運動には不安材料が見当たらない。むしろ、今後も最大の戦果を期待するのであれば、この2個小隊を残しておくことが望ましい。しかしながら、新設される小隊には不安が残る。何しろこの小隊はバーラタ航空宇宙軍初の、42期生だけの小隊になるからである。フレミング小隊ですら、小隊長は42期生のフレミングではあるが40期のトリチェリ先輩がフォローしてくれている。ましてや、実戦経験もない新卒パイロットだけで小隊編成をしてもよいものであろうか。マクスウェル中隊にはマクスウェルを含めて6人の41期生-実戦経験者-が配属されているのだから、せめてこのうち1人くらいはフレミング中隊に廻しても良さそうなものであるが、この辺り、司令官閣下はどのように考えているのであろうか。
『トリチェリ小隊案』のメリットは、少なくともパパン小隊には手を加えずに済むことと、新設小隊の小隊長に実戦経験のある40期生を任命することができること。逆にこの案の最大のデメリットは、トリチェリ編隊を放出したフレミング小隊が42期生だけの小隊になってしまうことである。「私なら大丈夫」などという傲慢さとは今のところ無縁の中隊長ではあるが「キルヒーがいてくれれば大丈夫」であるようには思える。実際のところフレミングとキルヒホッフのコンビは、過去2度の実戦においてそれぞれに戦果を挙げてきたことは周知の事実であり、フレミングのこの観測を傲慢と捉える者のはいないであろう。尚、この案の派生としてはキルヒホッフを編隊長にする案も考えられるが、
『ガリレイ小隊案』は他の2案に比べると非常にバランスが良い。各小隊に均等に40期生と実戦経験者が配置されている。パパン小隊の戦力低下は否めないが、中隊の中核たるフレミング小隊が固定されているのは心強い。あれでガリレイ先輩は意外と面倒見が良い、とはトリチェリ先輩の評であったが、そうであれば小隊長の任も充分に果たしてくれるに違いない。
あとは実際に配属された4人と各案をどのように組み合わせるか。幸いなことに司令官閣下は、フレミング中隊に配属させた4人の42期生について、特別な配慮をしてくれていたようである。
補充要員の1人目は42期席次15位のボースである。ボースはあの
2人目は席次27位のミリカン。
3人目は席次41位のトムソン。42期随一の「
4人目の補充要員は席次68位のマイトナーである。
さて、要するに司令官閣下の特別な配慮とはこういうことである。4人の42期生のうち、ボースとミリカン、トムソンとマイトナーはそれぞれ、
あるいはパイロットは、大別すると感覚派と理論派に分けられるかもしれない。無論両者は二律背反の関係ではないが、どちらの成分がより多くを占めているかはパイロットによって異なる。例えばフレミングは感覚派の最右翼である一方、トリチェリ先輩やケプラーは理論派であり、キルヒホッフは両者のバランスが程よく取れたバランス派であると言えよう。このような見方をした場合、小隊編成は同じ派で固めた方が好ましいのか、あるいはバランスよく配置した方が好ましいのか。フィギュアスケートで培った平衡感覚を重んじるボースと『脳筋』ミリカンは共に感覚派、確率論を重んじるトムソンと堅実機動のマイトナーは理論派に分類することができようが、さてこの辺りをどのように考えるべきか。
フレミングは中隊にいる3人の
「最後は私が責任を取らなくちゃ」
そう決意した
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フレミングは、自身が出した結論について事前に司令官閣下に報告した後、
「まずは報告ね。うちの中隊にも1個小隊が補充されたわ。それと、私達が使用する格納庫はD-10からD-12
おぉっ、という声がどこからともなく挙がる。ようやくフレミング中隊も通常編成になるのだ。こやっさんなどは既に「お嬢が正規の中隊長に」などと言って瞳を潤ませているようである。
「それでは、新任のパイロットを紹介するね。みんな、前に出てきて」
4人の42期パイロットを促したフレミングは、1人づつ紹介していく。
「まずはボース少尉。42期の席次は……何位だっけ? まっ、いっか。ボースはフィギュアスケートやってたんだって。凄いよね」
中隊長に紹介されたボースが一歩前に出て挨拶する。
「ボース少尉です。中隊長のご紹介通り、フィギュアスケートをやってましたので、空中感覚には少し自信があります。どうぞよろしくお願いします」
「次は
ボースに続きミリカンが一歩前に出て挨拶する。
「ミリカン少尉です。ボース少尉の
「そう言えば、ボースとミリカンって、髪の色もどことなく似てるよねぇ?」
ボースの
「その次はトムソン少尉ね。トムソンはぶどうパンが好きなんだって。ねぇ、どうして?」
そんな雑な紹介にも関わらず、真面目な顔をしてトムソンが挨拶する。
「トムソン少尉です。機銃弾をばら撒くのが趣味です。ぶどうパンは……とにかく、よろしくお願いします」
「
遅ればせながらの中隊長のフォローに、トムソンがはにかみながら頷く。
「最後はマイトナー少尉。マイトナーは私のことを『フレみん』って呼ぶんだけど、そんな呼び方するのはマイトナーだけなの」
だんだん雑になる紹介を意に介さず、マイトナーが挨拶する。
「マイトナー少尉です。
大事なことを言い忘れていたフレミングが慌てて付け加える。
「あぁ、そうだった。言うの忘れてた……トムソンとマイトナーには、うちの中隊でも組んでもらうね」
両少尉が無言で頷く。
「そう言えば、2人の髪の色も同じ系統だよね」
トムソンの
「じゃぁ、みんな。とりあえず4人の着任を、拍手でお祝いしてくれる?」
一斉に拍手が鳴り始める中、4人の少尉が頭をさげる。
「さて……」
中隊長が口を開くと場が一斉に鎮まる。中隊長の本題はここからなのだ。
「それじゃぁ、小隊編成のことなんだけど……ガリレイ先輩に小隊長をお願いしたいんですけど、引き受けてもらえますか、先輩?」
フレミングは『ガリレイ小隊案』を選択したのである。3案の中では最もバランスに優れた案であろう。
「ガリレイに任せて」
常のガリレイには珍しく、短いが力強い同意が返ってきた。トリチェリ先輩の言ってた通り、ガリレイ先輩は後輩想いなのだろう。フレミングの決断を全力で応援してくれるというその意思が、ガリレイ先輩の返答には込められていたようである。
「ガリレイ先輩、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げたフレミングが続ける。
「ガリレイ先輩の
この2人の連携は、今やこの2人しか実現できない
「Black Jack !」
相変わらずよく分からないプランクの返答であるが、恐らく『最善手』くらいの意味合いなのであろう。何故『Royal Flush』でもなければ『天和』でもないのか不明だが、少なくとも『Burst!』と返されるよりはましである。
「ガリレイ先輩とプランク少尉には申し訳無いのだけれど、ガリレイ小隊にはD-10
無言で頷く2人を見て安堵したフレミングは、次の指示に移る。
「それから、パパン先輩の小隊にはボース-ミリカン編隊に、ガリレイ先輩の小隊にはトムソン-マイトナー編隊に、それぞれ加わってもらいます」
パパンもカルマンも、どちらかと言えば-パパン先輩の熱い性格を除けば-理論派に分類されよう。一方のガリレイとプランクは、こちらは誰がどう見ても感覚派。この2つの小隊を編成するに当たってフレミングは、ここでもバランスを重視した。すなわち、理論派のパパン編隊には感覚派のボース編隊を、感覚派のガリレイ編隊には理論派のトムソン編隊を、それぞれ組ませることとしたのである。
「明日からの訓練は、この新しい編成で行います。みんな、今日の内によくミーティングしておいてね」
明日からはこの12人でファラデー先輩やテイラー先輩、マクスウェル先輩の中隊と、中隊規模のシミュレータ訓練を行うことになる。また明日になれば、こやっさんに頼んでおいた新機能も追加されることであろう。
「休戦明けまであと3日、3日後の21日1200時を過ぎれば、敵はまた攻撃を再開してくるわ。残された時間は少ないけれど、少しでも練度を上げておこう」
その場にいる全員が中隊長に敬礼する。捧げられた
「みんな、よろしくね」
フレミングが解散を宣言しようかと思ったその時、澄み切った清流のような透明感のある声が
「中隊長、意見具申!」
珍しくケプラーが率先して挙手をしているのを見たフレミングは、嬉しそうに問う。
「なぁに、ケプラー?」
意見具申、などと言っておきながらケプラーは、4人の新任パイロットに向かって宣言する。
「みんなが配属になったロリポップ中隊では、乗機をパーソナルカラーで仕上げるのが決まりなんだよ」
そうなの? と不思議そうな目つきでケプラーを見る4人の新人中隊メンバーを代弁するかのように、愛機を激しく明るい
「ちょっ、ケプラー、そんな決まりは別に……」
「えぇ~パパン先輩ぃ~、だって副司令官からの命令だって聞いてますよ。ねぇ、フレミングちゃん、そうだよねぇ~?」
今や中隊長に対する口調を忘れてしまった
「え? あぁ……多分……そうかな?」
「ほらぁ~、中隊長もそう言ってるんだし、パーソナルカラーは私が決めてあげますね!」
今やロリポップ中隊の専任
「ボースちゃんは
「ミリカンちゃんは
「トムソンちゃんはマット塗装の
「マイトナーちゃんは
それぞれの指定色を慌ててメモする機付長達の姿も、今やフレミング中隊の名物となっていた。
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