第29話:悔しかったから、こっちもずっとロックオンし返してやってたの
先に仕掛けてきたのは、上空にある
「機銃だけなら!」
機体を水平姿勢に戻した後、フレミングは素早く周囲の状況を確認する。今の回避行動によりフレミングは高度を2,000ftほど失うと同時に
フレミングはスロットルを
「
敵の動きを待って対応することなど、自分の性には会わない。そう思ったフレミングは、
「コブラっ!」
フレミングはスロットルを再び
あの時はその後スティックを戻してキルヒホッフ機を追撃したのだが、今は更に
「か~ら~の~」
更にスティックを手前に引き続け、スロットル脇の
「クルピットっ!!」
キャンディーマルーンの機体は180度反転して背面姿勢になる。但し、進行方向は変わらないまま、機首を後ろに向けた姿勢である。フレミングは背中に向けて全速前進しながら、後続の
「
キャンディーマルーンの
ガンレティクル下の数値が5,000ftを切った。敵機は眼前に迫る「
失った速度を降下により回復しつつ、今度は
「ようやく、しつこい送りオオカミをやっつけられたかぁ」
いつかの戦術演習を思い出しながらフレミングは周囲の状況を確認する。相変わらず高度20,000ft付近に2機、10,000ft付近に2機の敵機がついてきているようであった。バーラタの海岸線まではあと30kmほど。流石に本土上空まで到達すれば敵機は諦めてくれるであろう。キャンディーマルーンの機体には、もう1発のミサイルも残されていなかった。機銃弾も数秒の射撃を行えるのみ。
「あとはできるだけ距離を離して、海岸線までたどり着くしか……」
フレミングは
「ここまで降下すれば流石に対空砲火を警戒するでしょ?」
そう考えたフレミングであるが、どうやら敵の企図を再び読み間違えたらしい。よほどフレミングは敵から恨まれているのであろうか。
「まぁ一杯やっつけたし、それに……」
何しろ派手な機体なのである。
「囮役のつもりなんかないのになぁ~」
席次3位のボルタなどは、初めてキャンディー塗装されたマルーンのAMF-75Aを見た際に「これは囮専用機か?」と訝しんだそうである。結局のところは今、その
バーラタ亜大陸の西岸には海岸線から50kmほどの地点に2,000m級の山々が南北に連なる西ガウツ山脈がある。高度1,000ftまで降下したフレミングは、後方3km、高度2,000ftに2機、後方15km、高度17,000ftに2機の敵機を視認している。敵はフレミングを弄んでいるのであろうか。あれ以来、一向に仕掛けてくる気配が無い。17,000ftの2機-
「それならこっちも」
フレミングは
「
西ガウツ山脈までたどり着いたキャンディーマルーンの機体が山肌をなめるように上昇していく。
追われるフレミングには最後の選択肢が残されていた。それは、乗機を捨ててコクピットブロックを射出させることである。国際法は脱出したパイロットを射つことを認めてはいない。無論、敵がそれを守るという保証は無いが、それでも今の状況よりは遥かに助かる確率が高そうである。しかし、フレミングはそれを選択しなかった。
「
フレミングの独白を
「それに、おやっさんやみんなにも申し訳が立たないし……」
自分が今こうやって飛べるのは、おやっさんを始めとする
「
そう思うフレミングには、おやっさんの許可なく機体を放棄することなどできなかった。
「最後まで一緒に……」
そう自分に言い聞かせて山肌を駆け上がっていく。尾根を越えたら180度ロールから背面降下。今度は山肌に沿って降下して、あとは地表すれすれに飛んでやろう。そうすれば、敵だって
ついに尾根を越えた。スティックを右に倒してロールしようとしたまさにその瞬間、耳をつんざくアラート音に混じって、野太い男性の怒鳴り声が聞こえた。
「お嬢、
「おやっさん?」
と、フレミングのAMF-75Aがかつて見知ったような挙動を示す。
「
西ガウツ山脈東側の台地上、フレミング機から東方10kmの地上から8発の
8発のミサイルが4機の
「お嬢、よくそんなに早く反応できたなぁ~」
感心してみせる機付長に赤髪の分隊長は、にやけながら本当のことを話す。
「私ね、ずっと敵に追っかけられてロックオンされてて……悔しかったから、こっちもずっとロックオンし返してやってたの」
「あのなぁ、お嬢……まぁ、何だ……その、無事でよかった」
おやっさんの声を聴いてようやく落ち着きを取り戻したフレミングが報告する。
「あのね、おやっさん。私、一人前の……」
報告が終わらない前に、四散した敵機の破片がおやっさんの乗る8連装
「おやっさん、おやっさん大丈夫?」
無線からはノイズだけが返ってくる。8連装
「おやっさん、おやっさん!」
必死に呼びかけ続けるフレミングのヘルメットから、パルティル司令官の声が聞こえた。
「フレミング大尉、聞こえますか。状況はこちらでも確認しています。貴官は直ちに帰投しなさい」
司令官というよりは校長先生のような物言いに、思わずフレミングは反抗する。
「校長先生、おやっさんが……」
フレミングの応答に、しかし校長先生は気を悪くせずに諭す。
「フレミング、あなたの気持ちはよく分かります。ですがあなたの機体にはもう燃料がないのでしょう? あなたはまず、あなた自身と、何よりチャンドール准尉が整備した機体を無事にベンガヴァルまで運ぶことだけ考えなさい。チャンドール准尉のことはこちらで確認しますし、すぐに救援も送りますから心配しないで。分かりましたね?」
うなだれたまま小声で何ごとか呟くフレミングに、パルティル司令官が喝を入れる。
「フレミング大尉、貴官は直ちにベンガヴァルへ帰投せよ。復唱!」
はっと頭を上げた
「フレミング大尉、これよりベンガヴァルに帰投します」
「
フレミングは高度15,000ftまで上昇し、エンジンを
「おやっさん、みんな、無事でいて」
今は祈ることしかできないフレミングであった。
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