第28話:もう、まったくしつこいなぁ
「メーデー、メーデー、メーデー、こちら
ボルタから緊急通信が入る。ボルタの
「援けに行かなくちゃ」
そう呟くとフレミングは、
「
「
「ボルタ、待ってて、すぐ行くから」
ボルタに救援の意を示した後、フレミングは手早く隷下中隊に命令する。
「パパン小隊は先に帰投。帰路の安全を祈る」
「アタシらもいくぜ、中隊長」
スティックを操作して旋回、機首を方位210に向けつつフレミングはパパン先輩に応答する。
「いえ、今は少ない数で行く方が早いので……」
「ちっ、分かったよ……」
言い合いをしている余裕は無いことを理解しているパパンは、すぐに折れてくれた。
「小隊はアタシが預かる。中隊長も気を付けて」
「パパン先輩、ありがとうございます。フレミング小隊は私に付いてきて。
フレミングはスロットルを
「アレが本当に
フレミング小隊の出自を訝しむ
「アレはロリポップ小隊」
「もう間に合わない、早く来て、フレミング!」
ボルタの切迫した悲鳴が聞こえる。恐らくボルタ機の中では、敵のロックオン信号を検知したアラート音の間隔が短くなってきているのであろう。しかし、緊迫すればするほど、冷静な判断と操作が行えなくなるものである。
「ボルタ、落ち着いて。
「全て射ち尽くしたわ!残弾2発」
全て射ち尽くして残弾2とはおかしな表現であるが、落ち着きを失っている今のボルタ的には正しい表現であった。何故なら
「ボルタ、とにかくそれを射って! オフボアサイトでも射てるでしょ?」
「でも……」
なおも躊躇うボルタをフレミングが叱責する。
「今がその時でしょ! ボルタ!!」
こういう時……すなわち、友人に校則違反を唆す際の上手いやり口は、
「ボルタ、射てば機体は軽くなるし、敵が回避行動に移れば逃げる余裕もできるわ。その間に私達が追いつけば、あとはうちの小隊があなたを
ボルタの耳をつんざくアラート音に、フレミングの怒声が勝る。
「射て! ボルタ!」
思わず後方の敵機を振り返り目視でロックオンした
「
2発の
敵機が回避行動に移る様子を
「ボルタ、方位040。あと10数秒で
「
ボルタの少し落ち着きを取り戻した声に安堵しつつ、フレミングは
「敵は
「トリチェリ先輩は
「
「ボルタ、聞こえた?
「
ボルタからも応答がある。進路と高度を予め指示しておけば、ボルタの腕であれば問題なく追従するであろう。
「キルヒーも進路160に転進、ボルタの後ろについて」
「フレミーは?」
「私は敵の様子を伺ってから、
「分かったわ、フレミー。気を付けて」
「ありがと、キルヒー」
「小隊各機、ミサイル発射」
フレミング小隊がなけなしのミサイル12発をばら撒く。必中など期待できない象限と距離からの攻撃ではあるが、敵機撃墜が目的ではない。敵が回避する間にこちらが逃げ切るだけの距離を稼ぐことが目的なのである。敵も撤退しつつある状況で、深追いはしてこないであろうとの読みもあった。ある程度の距離が稼げれば、敵もそれ以降の追撃を諦めるであろう。
思惑通りに敵が回避行動を取る中、予想外にも戦果があった。
「キルヒー、1機撃墜」
ゆるふわの
敵状観察を続けるフレミングの目の前へ、必死の様子でフレアをばら撒きながら切り返しを繰り返す
「
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旋回しつつ状況観察を続けていたフレミング機の機首が方位160を向いた時、
一つ目の不幸は、この急造の
確かに、敵が撤退を開始したことは観測されていた。またパルティル司令官は正しく「敵の引き際に合わせて適宜後退せよ」と発令していた。しかし敵が撤退するにしても、「全局面・全部隊・全機同時に」などということはあり得ない。局地的には乱戦状況のところもあれば、互いに距離を取って牽制しているところもあろう。すなわち、後退とは敵と呼吸を合わせて行うべき類のものであるが、遠く離れたベンガヴァルにあっては敵の息遣いなど読めるはずもなかったのである。
そこに二つ目の不幸が重なる。ボルタの所属するハーン小隊は、元はテイラー中隊に所属していたものである。それが、ファラデー中隊3個小隊のうち、マリア小隊とホイヘンス小隊が敵中距離ミサイルにロックオンされたため後置された結果、臨時にテイラー中隊からファラデー中隊に異動になっていたものである。そしてファラデー中隊長が「ファラデー中隊、全機後退」と発令した際、ボルタは
ファラデー中隊の識別符号は「Mike」であり、ファラデーの機体は
この点においてフレミング中隊の救援は素早く、かつ、適切であった。敵を牽制、撃破し味方機を
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「もう、まったくしつこいなぁ」
また、高度17,000ftを飛ぶフレミングの下方、高度10,000ft近辺には、こちらも先に対戦した
そして、高度22,000ftの上空には、こちらは新手の
「ファーレンハイトだって見てるんだから……」
無様なことはできないであろう。改めて意を強くしたフレミングは、この劣勢をどう凌ぐか算段していた。フレミング機の残弾は
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