第13話:無事生き残ったら、みんなでまたパーティーをしましょう
「パルティル校長閣下、第18小隊チャンドール准尉より意見具申」
「意見具申を認める」
「これよりフレミング機およびキルヒホッフ機の2機は
オープン回線を通じてパルティル校長に許可を求めるおやっさんに応じて、パルティル校長が、こちらもオープン回線を使って全校に指示する。
「発
おやっさんの言う通り、パルティル校長はロケットブースターの使用を認めてくれた。しかも、おやっさんが敢えて「
「キルヒー、準備はいい?」
「えぇ、大丈夫よ、フレミー。いつでも行けますわ」
「じゃぁ行こう!」
キャンディーマルーンのAMF-75Aがエプロンまで移動し、アンティークゴールドの機体が続く。発進前の最終点検シーケンスを終了し
「じゃぁキルヒー、先に行くね」
「えぇ、ワタクシもすぐ行きますわ」
西南西1mの微風。離陸に影響は無い。フレミングは左手のスロットルを押し込んでミリタリーに入れると同時に
「ロケットブースター、オン」
「ううぅ……」
シートに背中を押し付けられる圧迫感に耐えながら、ロケットブースターの性能に感動すら覚えるフレミング。ほんの200mほど滑走しただけで充分離陸速度に達してしまう。しかもアフターバーナーを使用していないのだ。軽く右手のスティックを手前に引いて、そのまま離陸。ピッチ角45度で上昇しつつ後下方を見ると、キルヒホッフが離陸手順を始めていた。1分後、体を押し付ける力が少し小さくなるのを感じたフレミングは、再度
「ブースター、
体がふわりと浮くのを感じる。
ヘルメットのスピーカには、先ほどから同期生達の怒声やら悲鳴やらが響き渡っている。
「早く離陸なさいよ」
「まだ
「あぁ、もう間に合わない」
「何よ、落ちこぼれのくせに、あんなズルあり?」
ディジタル自動応答
おやっさんなどはこの状況を、パルティル校長の親心であると理解している。恐らく、3号学生の多くが今日、この場で命を落とすことになるであろう。それを……
「誰かぁ~助けて~」
「神様ぁ~」
「ママ、もう一度会いたかった……」
その最期の想いや祈りを、せめて聞き届ける義務が指揮官にはあるはずであった。ひよっこ達は、まだ20代になりたての乙女達である。こんなところで、こんな死に方を……今頃校長は唇を固く噛みしめているに違いない。涙を流す、その代わりに……
「フレミングちゃんとキルヒホッフちゃんは、ちゃんと退避できたんだね。よかった~」
澄み切った清流のような編み込みの
「うちらより遅かったから、心配したっしょ!」
華やかなボリュームのある
「ケプラー、ファーレンハイト、2人とも……」
声を詰まらせるキルヒホッフに、ファーレンハイトが茶目っ気を交えて声をかける。
「うちら、テストの山だって当たらないのに、ミサイルなんて当たる訳ないっしょ。なぁ、ケプラー?」
「えぇ~、私テストの時はちゃんと勉強してるしぃ~、ファーレンハイトちゃんみたいに山なんて張ってないよぉ~」
2人とも弾着までに無事離陸できないであろうことは理解しているのだ。にもかかわらずいつも通りの掛け合いを続ける
「無事生き残ったら、みんなでまたパーティーをしましょう。これは
「いやいや、それまじフラグだし……」
「キルヒー、こういう時はそういうこと言っちゃいけないんだよ!」
「
等と言った批難がまた回線を埋め尽くす結果となったが、このような危地にあっても尚明るさを忘れない若者達に健全な精神の成長を見た思いのパルティル校長は、1人心の中で第18小隊の面々に謝意を表するのであった。
******************************
「いいか、お嬢、それにヒメさん」
無線周波数をチャンネル27に切り替えたフレミングのヘルメットに、おやっさんの野太い声が響く。これは第18小隊専用に充てられたチャンネルで、他の同期生には聞こえてない。尤も、第18小隊専用と言っても、ケプラーとファーレンハイトには知らされていないため、事実上、おやっさん、ネル隊長と
「こちらフレミング、無線周波数をチャンネル27にセット、オーヴァー」
「こちらキルヒホッフ、同じくチャンネル27にセット、オーヴァー」
2人からの返答に満足したおやっさんが続ける。
「今から2人の戦術コンピュータをこっちで借りるぞ。お嬢達の
何を言われているのか分からない
「あぁ、つまりですね、我々の現地改修プランはブースターだけではなくて、
ネル隊長がおやっさんを引き継ぎ説明を続ける。きっと2人は、
「幸い、
「まぁ、そのためにはお嬢達の機体をオレらがジャックして、地上にあるミサイルを自分の武装だと戦術コンピュータに誤認させよう、って訳だ」
「何か質問はあるか? オーヴァー」
「大体分かったけど、で私達は何をすればいいの?」
フレミングはキルヒホッフにも共通の疑問をおやっさんに問う。
「その前に、だ。お嬢、交信終了時にはどうすんだ? ったく、そんなんじゃ無事卒業できねぇぞ……」
反論したいが、相手はまだ交信終了の意を示していない。フレミングは発話スイッチを押さずに「分かったから、さっさと用件を言いなさいよ」と呟く。
「どうせ今頃、『分かったから、さっさと用件を言え』とか何とか言ってんだろ? まぁ、それはおいといて……あ、何だよ、ネル……」
「フレミー嬢、姫様、すいません、どうもチャンドールの要領が悪くて……」
後ろの方から「オレぁ要領悪くなんかねぇよ」と怒鳴り声が聞こえる。2人は仲がいいんだなぁ、と少しほっこりした気分になったフレミングは、2人の機付長の説明を待つ。
「お2人にはまず戦術データリンクのコードMXT783Aに接続して頂きます」
「次に
「それから、どれでも構いませんからそれぞれ適当な目標を8個
「最後に、誘導モードをデータリンクに変更してください。手順は以上です。何かご質問は?オーヴァー」
「ネル隊長、ひとつお聞きしますが、何故最初からデータリングモードで誘導なさいませんの?オーヴァー」
「まっ、仕様だな、ヒメさん」
「ちょっ、また、チャンドール……もう少し丁寧に……姫様、申し訳ありません。つまり、ミサイルは実際には地上にある訳なので、ある程度の高度まで打ち上げてからデータリンクに渡したいのです。その点、
ネル隊長の説明にあまり深く理解と関心を示さない
「難しいことはよく分からないけど、要はデータリンクに接続してから
語尾をわざと強めに発音して交信を終了したフレミングの返答に、ネル隊長は目を丸くし、おやっさんは細くした。
「じゃぁ、そろそろ始めるぞ。以降はこちらの指示に従ってくれ。作戦開始!」
「コネクト、
フレミングとキルヒホッフが同時に
「
武装の選択に続いて照準モードを
「セット、
フレミングとキルヒホッフがそれぞれ8個の目標をロックしたことをコンソール上で確認した2人の機付長は、次の指示を出す。
「お嬢、ヒメさん、射て!」
「
2人のパイロットの
「やっぱり、アンカーかカウンターウェイトを何とか考えなきゃいけねぇなぁ……」
16発の中距離空対空ミサイルが地上から打ちあがるのとほぼ同時に、
頭を掻きながら即席ランチャーの方に近づくチャンドール准尉を後目に、ネルクマール准尉がコンソールに呼びかける。
「それでは、誘導モードをデータリンクに変更してください」
「セット、
ロック対象が次々と更新されていく様子が
「発
「1505時、第18小隊キルヒホッフ分隊およびフレミング分隊が敵ミサイル群の迎撃に成功。その多くを空対空ミサイルで撃墜した」
パルティル校長の力強い戦果報告に、
「落ちこぼれ小隊が?」
「あれは機付長の戦果であって、落ちこぼれの戦果ではないわ!」
等と言う者もあったが、学年首席の一言がそれらの批難を封じた。
「仮に機付長の戦果であっても、その功は分隊指揮官たる分隊長に帰するものですわ!」
賞賛と批難と悲鳴の混じった喧噪をよそに、第18小隊専用の秘匿回線を使って、ネル隊長が2人の分隊長に告げる。
「作戦終了です、お疲れ様。このまま我々も退避壕に避難します。姫様、フレミー嬢にはこのまま、上空待機を願います。オーヴァー」
しかし、敵ミサイル群のうち迎撃を免れたいくつかは生存したまま
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます