第8話:戦争って誰のために……?
「ねぇ、おやっさん。
いつになく殊勝な面持ちで
「この前の『何でコイツがお嬢を乗せてるか?』って話の続きか?
おやっさんが髪を掻きながら返答する。「この様子だと、未だ何か答えを得たって訳でもねぇだろ」と想像しながら分隊長が口を開くのを待つ。
「そう……だって
「お嬢は
バーラタ共和国航空宇宙軍の
ヒメシステム第1世代と呼ばれるAMF-35Aは、バーラタの基本戦略策定において画期となるものであった。海上から侵攻する敵戦闘機の迎撃が主任務であれば、戦闘機の機動性やステルス性よりも搭載するミサイルの質・量と戦術コンピュータの能力の方が重要なのではないか、というのがそれである。侵攻する敵機は、必ずしも自軍戦闘機のレーダーに映る必要はない。地上レーターサイトや空中早期警戒管制機が敵機を捉えれば-もし捉えられず領空にまで侵入されたら、その時点で戦略的敗北であろう-、戦闘機は戦術データリンクに基づき管制の指示に従ってミサイルを
「だからね、
おやっさんには、フレミングの次の疑問も手に取るように分かっている。
「でもさ、本当にパイロットには技量が求められていないのかなぁ?」
だからおやっさんは、敢えて
「確かに、AMF-60Aなんざぁ、そんなコンセプトだわなぁ」
おやっさんの言うAMF-60Aは
「何かさぁ、
フレミングの言う通り、パイロットには操縦能力以外のものも求められる。例えば、バーラタ航空宇宙軍のパイロットが全て女性であることはその象徴であろう。
「まぁ、
一部では「公にはされていないが、
「その何だ、美人パイロットが格好いい戦闘機を駆って大空を飛んでたら、そりゃ、少なくともムサいオレらが飛ぶより絵になるのは仕方ねぇだろ」
実際、航空宇宙軍広報部は各種メディアの要請に応じる形で「美人パイロット特集」なる記事や番組に協力したり、あるいは基地航空祭などでは、
「それにお嬢だって、
フレミングは、そのシャトーワインのような深みのある赤をモチーフにしたマルーンをパーソナルカラーとして愛機を塗装している。親友のゆるふわ
「でもさ、それなら何で
「そりゃ、AMF-60Aが人気が無かったからだろ」
おやっさんの返答は素っ気ない。確かに、小型単発のAMF-60Aは玄人筋には受けがよくても、やはり地味との印象はぬぐえない。その点、カナード付き前進翼なぞマニアでなくとも興味がそそられるのは当然で、事実、
「それに、AMF-60Aには近代化改修の余地がほとんどねぇからなぁ……」
本来であればヒメシステム第3世代戦闘機の開発と制式採用は、あと10年は先を見込んでいた。しかし、ミサイルの大型化や高性能化が進むにつれて、小型のAMF-60Aでは対応が困難になっていたのが実際のところである。大型化する戦術コンピュータを収容するスペースにもこと欠く始末で、AMF-75Aの開発に当たっては、将来行われるであろう改修への
「でも、だからって……」
「だからこそ
「いやそうだけど、そうじゃなくて……」
無論、おやっさんにはフレミングの言いたいことが良く分かる。AMF-75Aは
「お嬢は
「そんなこと、ある訳ないじゃん。
オレの子でもあるぞ、という表現に何かひっかかりを覚えたおやっさんは、敢えて話題を変える。
「で結局、何でコイツはお嬢を乗せてんだ?」
戦争は人がするもんだから、というのはこの前おやっさんがくれたヒントである。それは「私が
「だから、それがさぁ~」
「まぁ、そうだわな……」
見透かされた思いのするフレミングが、ぼつりと自問する。
「もし
「だったら?」
おやっさんの相槌に、
「だったら……戦争って誰のために……?」
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