第8話 もう一人の死神との出会い
幼児の恨魔を無事倒した
自宅に戻った黒崎仁はあまりの疲労のため、気絶するように眠りに落ちた。
翌日が休日で本当によかったと彼は思った。
正午少し前まで眠った仁はようやく目を覚ました。
横にくるまって眠っている白猫姿の愛がいた。
仁が目を覚ますとほぼ同時に愛も目を覚ます。
「やあ、おはよう仁」
ふあぁっと大きなあくびをして愛は言った。
「やあ、おはよう」
うーんと背をのばし、仁は返事する。
長時間眠ったことにより、仁の体は
熱いシャワーを浴び、着替えた仁は昼食をとるためにいきつけのカフェに向かった。
愛は白猫の姿のままボストンバックにもぐりこみ、仁にかつがれた。
「どうして、人間の姿にならないのかい?」
仁は訊いた。
正式に死神になれば、人間の姿にもどることができると一ノ瀬市子はいっていた。
「ちょっとこの姿が気にいっちゃってね。猫の姿も悪くないものさ」
そう言い、ふざけてにゃあと愛は鳴いてみせた。
「それにこうやって仁に抱かれるのも悪くないしね」
ふふっと笑い、愛は付け足した。
仁のいきつけのカフェの店名は宿り木といった。
こだわりのコーヒーと手作りスイーツと料理が楽しめるカフェであった。
仁はここのチキンサンドがとくに気に入っていて、カフェオレと一緒にオーダーするのが常であった。
猫連れの仁は外のテラスに案内された。
オーダーはいつものホットカフェオレとチキンサンドだ。
料理が運ばれるまで、仁はテーブルに愛用のノートパソコンを開いた。
そこで彼はある記事をみるためであった。
昨晩、彼はあの幼児のことを聞いていたが、それをきっちりと知るためであった。自分たちの倒したもののことは知っておきたいと思ったからだ。
仁がネットで検索するとある幼児の虐待死事件の記事がパソコンの画面に写し出された。
四歳になる男の子がこの冬の寒空にベランダに裸で放置され、凍死したという記事であった。
幼児はとても痩せていて、幼児の平均体重よりもはるかに軽いものであった。それに消防によって発見されたその幼児の遺体には火傷や青あざがいくつもあり、虐待を受けていたのはあきらかであった。
その両親は現在、警察に逮捕され、裁判を待つ身となっていた。
運ばれてきた熱いカフェオレに口をつけながら、仁は目頭が熱くなるのをおぼえた。
「これはちょっと……」
仁は記事を読みながら、言葉をつまらせた。
あの黒いもやの恨魔となった幼児はあんな姿になってもなお、まだ両親を探していたのだ。
「ああそうだね」
そう言い、仁の目からうっすらと流れる涙を愛はざらざらとした舌でなめた。
「
愛は言い、仁からチキンサンドのチキンの欠片をもらっていた。
「僕たちが相手にしないといけない敵はそういうものたちなんだね」
チキンサンドをかじりながら、仁は言った。
「そうさ、僕たちは現世に留まろうとするその恨魔を輪廻の輪に戻さないといけない。それが僕たち死神の仕事なのさ」
愛は言った。
仁と愛がテラスで食事をしながら、会話をしていると店内である事件が起ころうとしていた。
ある男性客が店内で電子タバコを吸いだそうとしていた。
それに気づいた女性の店員が彼の行動を制止しようと声をかけた。
「お客様、店内は禁煙となっております」
その店員はショートカットの髪型にエプロンをつけた可愛らしい雰囲気の女性であった。
「なんだって」
その男性客は女性店員が制止するのを気にせず、電子タバコを吸いだした。
「俺がなにをしようが勝手だろう」
男は傍若無人に言う。
「その…… 他のお客様のご迷惑になりますし」
女性店員は男に喫煙をやめるように言う。
だが、その男は自分のマナー違反をやめない。
「迷惑ってんなら出てこいよ。ここで俺がなにをしようと自由だろう」
自由の意味をはき違えながら、男は言った。
「そ、その……」
女性店員は激昂する男におびえながら、うつむいた。
見ていられなくなった仁はたちあがろうとした。
あまりに理不尽は男の行動にがまんができなかった。
「ちょっと待って」
立ち上がろうとする仁を愛がとめる。
「どうしてさ」
仁は訊いた。
あの女性店員はなにも間違ったことをしていないのに今にも泣きそうになるのを必死にこらえている。
「かなりやばいやつがいるんだ」
かなり警戒しながら愛は店内の様子をうかがっている。
「僕が迷惑なんだな」
女性店員の背後に背の高い男が立っていた。
紺色のジャケットにデニムのパンツというシンプルないでたちの青年であった。癖の強い黒髪に丸目がねが特徴的だ。目鼻立ちがくっきりとしていてなかなかの美男子だ。彼はその手に六十センチメートルほどのドールを抱えていた。
ドールは金髪の巻き毛で愛らしい姿をしていた。
突然あらわれた癖っ毛の男はマナー違反の男にその端正な顔を近づける。
「もう一度いってあげようか、僕が迷惑なんだよ。僕はここで週に一度、藻世子と一緒に読書をするのが楽しみなんだ。けど、君は僕たちの大切な時間を馬鹿みたいな大声と臭いけむりで台無しにした。だから、僕は君を許さない」
丸目がねの奥の目を細め、癖っ毛の男は言った。
「なんだとてめえぇ」
さらに激昂した男が立ち上がり、癖っ毛の青年に掴みかかろうとした。
「藻世子、こいつを僕たちの
癖っ毛の美男子が言うと、なんと言うことだろうか腕の中のドールが口を開いた。
「
高い少女の声でドールは言った。
空を紡ぐ者と白い死神は想像世界を往く 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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