第二十四話 愛しき友よ
その時である。
不意に牢の中に光が満ちた。牢の扉が開いたのだ。
さらに激しい怒号とけたたましい足音が重なり、そして長剣を構えたひとりの男が牢の中になだれ込んできた。
カーサにも見覚えのある、その顔に光が当たる。
「セダイ……!」
果たしてその男の正体は、セダイであった。
そしてセダイを追って2人の衛兵がさらに牢に乱入して、叫んだ。
「セダイ医官! 誰の許可をもらって入ってきた! 御前であるぞ!」
「……誰の許可もなにも、
セダイはそう叫んで、素早い動きで衛兵に剣先を突きつけると、躊躇なく喉元を切り裂いた。吹き出した鮮血がセダイを染め、血なまぐさい匂いが牢に充満する。
「医官だからって舐めるなよ、剣の使い方くらいは、一通り知っている!」
続いて、セダイは身を反転させるや、もうひとりの衛兵の腕を後ろから刺し、剣を床に落とさせるやいなや、これまた一寸の迷いもない動きで、背中から2人目を斬捨てる。
そして、全身から血を滴らせながら、カーサ、そして、ザルツの元に走り寄ると、ザルツの頬を思いっきり張り飛ばし、その目を無理矢理覚まさせた。
「セダイ……」
セダイは、意識を取り戻した友の体を強く揺さぶり、耳元で怒鳴った。
「ザルツ! いいか、お前が今生きているのは何故だ? それをよく考えろ! たしかにお前はアーリーを殺した。だがな! アーリーはお前を生かすために、お前に敢えて殺されたのだろうが! そのことを忘れて、むざむざ死のうとは、アーリーに申し訳が立たんだろうが!」
セダイはそう怒号を上げながら、ザルツの肩を掴んでその目を睨み、続け叫んだ。
「そしてだ、いま、お前の前にいるのはアーリーじゃない、カーサだ、お前が絶対に護ると言ったカーサだ! お前が命がけで護ることで、生きることができたカーサだ! それでも、お前は自分の生に意味が無いといえるのか?!」
ザルツはセダイの剣幕の前に、ただその身を揺さぶれるばかりだ。だが、その目には薄ぼんやりとだが焦点の合った光が満ちつつあった。
それをセダイは確かめると、カーサの肩を借りて、おぼつかない足つきのザルツを半ば無理矢理立ちあがらせた。
そして、カーサに向き直り、その手に鍵束を掴ませ、言った。
「カーサ、この鍵を使い、ふたりでここを脱出しろ」
「セダイ……」
「カーサ、頼む、ザルツを救ってくれ……!」
その語尾に、牢の扉の方角から聞えてくる複数の衛兵の足音が重なる。
セダイは次の瞬間、牢の隅で、ただ体をこわばらせて一部始終を見ているしかなかったサレス二世に素早く近づき、剣先をその喉元に突きつけた。
そして、次々に牢に飛び込んでくる衛兵に向かって叫んだ。
「その2人を通せ! さもないと陛下の命を頂戴する」
衛兵たちの動きが固まった。
その隙に、カーサはザルツを引きずるように牢の扉まで導くと、扉の外へ滑り出、外へと続く通路を出来る限りの速度で歩んでいった。
ザルツを支え、一歩、また一歩と。
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