第二十二話 絶対に救う
翌朝早く、アーノルドに見送られ、彼の部下2名の兵士を従えて、カーサの馬は王都への道を再び駆けだした。
馬は何者にも遮られることなく走り、それは、アーノルド率いる叛乱軍の支配地域が思った以上に都近くまで広がっていることを肌で感じさせるものであった。
数時間後にはカーサは王都を見晴らす丘の上に到着した。兵士たちは無駄口を叩くことなく、カーサに敬礼すると、元来た道へ踵を返し戻っていった。
「さあ……、行かねば!」
カーサはそう自分を勇気付けるように声を出して、はやる気持ちを抑えつつ、王都の門へ至る道を駆け下る。
腰には父が故郷を出るとき荷物に入れてくれた短剣がぶら下がっている。いざとなったら、これでザルツを護るのだ。
……剣の稽古しか嗜んだことのない、自分が、そんなこと、できるのだろうか?
だが、やるだけのことはやろう。ザルツが自分を護ってくれたように、今度は私がザルツを救うのだ。
再び独りになった、いまのカーサを支えるのは、その一心のみである。
やがて、馬は都のいくつかあるうちのひとつの門に到達した。
城に一番近く、なおかつ、手薄であるとアーノルドが教えてくれた門だ。だが手薄といえども、警備の衛兵は勿論いる。
途端に誰何の声が飛び、カーサの馬は止められた。が、アーノルドの言ったとおり、馬に掲げられた王紋はどんな証書よりも強力だった。
「ご苦労様。私は城の者よ。城に戻るところなの。通して下さるかしら」
王紋をことさらに見せびらかしながら、そう柔らかな物腰で告げてみれば、皮肉なことながら、衛兵はカーサを王族の一員とでも思ったのか、一礼して引き下がり、門を開いた。
カーサは内心ほっとしながら、平然としたふりをして門をくぐる。
こうしてカーサはカメルアの王都に、1年ぶりに戻った。あとは城を目指すのみである。はじめてじっくりと見る都の様子にきょろきょろしながらも、道標を見つけては城に近づいていく。
だが、その行程でも、民の疲弊ぶりは目に付いて余りあるものであった。路上で倒れている者がいると思えば、貧しそうな子どもが道行く人に路銀をねだる光景も、あちらこちらで見かける。
カーサもそのような子どもの一団に追いかけられては振り切りつつ、馬を進めた。そこで自分が改めて、どんなに恵まれた暮らしをしてきたかということに想いを馳せるとともに、アーノルドが言うように、カメルアの国としての寿命が尽きつつあるのをカーサは肌で感じ取ったのであった。
そして気が付けば、カーサは王城の門前に居た。
重装備の衛兵が何人も配置されているのが見て取れる。さすがに城の守りは厳重である。
ここまでは王紋が力を持ってくれたが……、ここでも通用するかどうか。
いや、やってみなければわからない。
そう覚悟を決めて息をのみ、馬から下り、門に歩を進めようとしたときである。
「カーサ・スリズだな」
背中を冷や汗が伝う。同時にみぞおちに鋭い殴打を喰らい、カーサは自分の運が尽きたのを知った。
膝から地面に崩れ落ちたカーサの腕を、何者かが掴んで体を引き起こし、冷ややかにこう言うのを、遠ざかる意識の奥でカーサは聞いた。
「カメルアの王城の警備を甘く見おって……。さぁ、カーサ・スリズ。陛下がお前をお待ちだぞ」
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