第15話 的外れ

頼のいきなりの行動によって、二人は激しく動揺した。


彼が指していた方向に立っていたので、璃々佳は自分へ向けたシグナルだと思い込んだ。しかし、それはどういう意味なのかをすぐに理解できなくて、彼女はただ走っていく頼を見つめて、顔にどういう表情を見せるか戸惑っていた。


ただ、その指差しは実際に真尋へ向けるものだった。


璃々佳の隣に立っていた真尋も頼の行動に驚かされ、一瞬頼と目が合ったような錯覚があった。ただ、よく考えると、頼との間にそこまで親しくなかったし、彼は自分へメッセージを送ろうと考えにくいと判断した。だから、あれは自分へ向ける行動ではないと思った。真尋は隣にいた璃々佳へ目を向け、混乱状態の彼女を見つめて、やっぱりあれは璃々佳への行動だと確信した。


頼はただシュートを決めた喜びを自分が好きな女の子へ届けたい一心で、不本意ながらややこしい事態を作ってしまった。



チームは大活躍したけど、やっぱり全国級の強豪をそう簡単に倒せないので、残念ながら僅差で敗れた。贈呈式の後、更衣室にいた頼と遼は荷物をまとめていた。


「お前さ、さっきのあれは何だ?」

「あれって?」

「観客席への指差し、あれどういう意味?」

「あれ?や、ただ勢いで…その喜びをシェアするというか…」

「余計なことをしたかも」

「どういう意味?」

「だって、そこに立っていたのは二人だよ。誰に向けるメッセージって、分かりずらいだろう?」

「え?ああ、それは…」

「誤解されてもおかしくないよ、二人とも」

「やっぱりはっきり説明するべきかな?」

「どういうふうに説明したいわけ?あなたじゃなくて、隣にいる人が好きみたいな?」

「そんなこと言えないよ!それに、別に告白のつもりじゃないし」

「お前さ、こういう心のない行動をやめたら?璃々佳のやつ、明らかにお前のこと好きだって、分からないの?で、あんたが好きなのは彼女の親友」

「だから俺は璃々佳にそういう感情がないし、璃々佳も俺に…」

「それ、確信ある?いくら否定しても、丸見えだぜ、璃々佳の気持ち」

「仮にそうだとしても、俺は…」

「一ミリも好きじゃないって言える?」

「友達の好き、異性への好きじゃない」

「じゃ、はっきりしたら?じゃないと、お前のせいで、あの二人の友情もいつか壊れる」

「そんな大げさな…」

「一応忠告したけど、罪深い男になるなよ」


頼は遼への反論ができなかった。確かに薄々感じていたけど、自分は璃々佳からの好意を見て見ぬふりをしていた。二人の友情を壊したくないから、あえて曖昧な感じで接していた。でも、遼の言う通り、もし真尋とこれまで以上の関係になったら、璃々佳との関係も見直さなければいけない。自分の幸せのために璃々佳を傷つけたくない、そしてあの二人の友情も壊したくない。



試合終了後、璃々佳と真尋は会場の近くにあるファミレスへ行って、頼と遼がこっちへ来るのを待っていた。窓の外を見ながら何かを考えているような璃々佳は、先の出来事を脳内で何度も再生していた。そんな璃々佳を見つめていた真尋は、しばらくしたら彼女の顔の前で手を振った。


「もしもし~早く地上に降りてください」

「ええ?ああ、ごめん…」

「まだ考えているの?先、重岡くんがやったこと?」

「そんなこと…」

「嘘をつかないでよ、明らかに動揺しているじゃない」

「あれはさあ、どういう意味なの?誰へのメッセージなのかな?」

「多分私たちの方向を指していたのは間違っていない。でも、私へ向けるはずはない。だって、重岡くんとそんなに親しい間柄でもないから」

「じゃ、私へ向けて?でも、どうして?」

「本人に聞いてみたら?」

「聞けるはずはないでしょう~」

「でも、悩んでも答えも出ないじゃない?一番効率的なのは本人に確かめること」

「マロの場合ならはそれをできる?」

「何で私が?」

「ほら、いつも異性の前では堂々としていられるし、なんか緊張することもないから」

「好きな人じゃないから、普通の振る舞いができると思う?だって、リリだって増田くんの前ではいつもの君でいられるでしょう?言いたいことがちゃんとぶつかっていて、女の子らしさを出せなくてもいい。でも、重岡くんの前では…なんかこう自分のいいところを見せようと、すごく頑張っているから、ほら自覚ないでしょう?」


完全に見抜かれた、と璃々佳はドキッとした。確かにそう、普通でいられたくても、どうしてもいつもの自分ではいられない。妙にハイテンションになっていて、気持ちが溢れ出すのを必死に抑えていた。


「これを機に、重岡くんの気持ちを確かめたらどう?はっきりしたほうがいいかも」

「断れたらどうする?」

「いつか自分に振り向いてくれるのを待つか、彼を振り向いてさせるのを頑張るか、それともあきらめるか?」


そうだよね。ただ待つだけじゃ、自分は何もできない、二人の間にも進展がない。


「別にすぐストレートに告白とかじゃなくて、ただ探り合う程度ならいいじゃない。重岡くんのガードは固そうだけど、案外あなたに素直になれるじゃない?」

「そうかな…だっていつもこういう恋バナになると、茶化すことが多い」

「トライすることが重要!結果は後で悩む」

「マロならこんなことできそう」

「どうかな、そういう相手はいないし」

「仮にそういう気になる相手がいたら?」

「私はどうもしないよ。そして向こうが気があっても、こちらから彼を諦めさせる」

「何で?」

「椎名家には自由恋愛なんてない。しかも、その誰かを本気で好きなら、こんな家に入らない方が向こうのため」


頼と遼は丁度そのとき店に入って来て、璃々佳は真尋にこの発言についてもっと聞くことができなかった。



食事の後、4人は電車で地元の駅へ帰った。あまり公共交通を利用しない真尋にとって、これはとても貴重かつ新鮮な体験だった。


そんな楽しんでいた真尋を見つめていた頼。

彼の視線は自分へ向けるものと勘違いしていた璃々佳。

そして頼の視線を薄々感じても、自分じゃないと言い聞かせた真尋。


仮眠のふりをしていた遼は、この3人を観察しながら、半分心配と同時に、どこか面白がっていた。


この時、まだ誰も知らなかった。

この三角関係は自分たちの人生を大きく変えることを。

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