第451話 大神界の新たなる主

ルオ・ノタルを守るために展開していた神造次元壁の≪神力≫を回収した。


もはやこの≪大神界≫内に脅威は無く、必要が無くなったからだ。


MEMORANDUMメモランダムによると、≪始まりの四神≫に連なる子孫神たちは、クロードが引き継いだ≪唯一無二の主≫から引き継いだ万能たる権能により、如何様にも造り変えることができ、しかも自らの存在に関わる根源的な畏れから敵対行動などはとることができないという説明であった。


これは神々からすれば、ある種の作品、霊的物体にすぎない人間から≪神≫たる高みに至ったクロードには存在しない畏れであったがゆえに、その真偽はわからなかったが、もし仮にそうした事態に陥ったとしても何も問題が無いと考えていた。


≪大神界≫内の低次元階層、特に第一天にあたっていた空間域には、まだこれらの子孫神たちがクロードの≪神喰≫による取り込みを逃れて生き延びていたが、第二天以上の神々と比べてもその力は矮小で、もし歯向かうならば、滅ぼして≪神力≫を回収すればいいだけのことだった。


いまやこの≪大神界≫におけるクロードの存在は、唯我独尊、融通無碍の境地に至っていた。


この広大な≪大神界≫のいかなる場所にもただそこにいくのだと決めただけで、一瞬で移動することができたし、万物の有様を思うがままに自由にできた。


そうであるがゆえに、≪始まりの四神≫が与えられていた≪真理≫、≪死生≫、≪不変≫、≪流転≫の四つの権能は、≪大神界≫を≪唯一無二の主≫の無意識の願望などから保全するための、ある種の制御機能をも有していたのだと理解した。


この四つの権能を切り離し、異なる人格を持つこれらの神々に預けておくことで、一時の感情や思い付きで自らが生み出した≪大神界≫を左右することが無いようにある種の秩序を保とうとしていたのだ。


それほどに≪唯一無二の主≫から引き継いだ、この力は取り返しがつかなく、恐ろしい力であったのだ。


自らに何らかの制限をかけなければ、うっかりと対象を無に帰すことも起こし得る。


クロードは≪死生≫、≪不変≫、≪流転≫の三つの権能が、ダグクマロたちから取り込んだ直後同様に、この≪大神界≫全体に効果を及ぼし続けていることを確認し、安堵した。




神造次元壁が消えるとそこには、オルタ、ヴェーレス、エナ・キドゥが待っていてくれた。


オルタ、ヴェーレスは、クロードの姿を見つけるとすぐに近寄ってきてくれたが、エナ・キドゥは普段の天真爛漫な明るさからは想像もできないような恭しい様子で、その場に控え動かなかった。


≪唯一無二の主≫の≪神力≫を取り込み、その権能の全てを引き継いだ影響だろう。


「エナ、顔を上げてこちらを見てはくれないのか? すべて終わった。君の存在を裁く存在はもういないし、もう安心しても大丈夫だ」


「いえ、それは畏れ多いこと。ディフォンさまから感じるこの圧倒的な存在感とこの大神界≫そのものとも言える無限の≪神力≫はまさしくこの≪大神界≫の頂に存在する≪唯一無二の主≫と同一のもの。私の如き端神はしたがみなど、御前で存在しているだけでも畏れ多いことなのでございます」


エナ・キドゥの態度は頑なで、これまで通り接してほしいと頼んでもそれを崩そうとしなかった。


おそらく他の神々もそうなのであろうが、創造主たる≪唯一無二の主≫に対する心の制動とも言うべき機能が組み込まれており、それが邪魔して本来のエナ・キドゥらしさを表せないでいるようだ。


クロードは万物に及ぶその力でエナ・キドゥの心の中の枷を消してやった。


それはエナ・キドゥと≪唯一無二の主≫とのつながりを断つ行為であり、彼女自身の有様ありようを無断で改変してしまう行為だったが、ただ従順なだけの彼女の姿を見ることはクロードにとってはどこか寂しく、望ましい状況ではなかったのだった。


自分が望むままに他者の存在を自在に変化させてしまうこのような行為は、たとえ≪大神界≫の新たなるあるじたる存在になったのだとしても許されざる傲慢であったかもしれない。


改変前のエナ・キドゥと改変後のエナ・キドゥは、全くの同一の存在とは呼べなくなってしまったのかもしれないのだから。


クロードは心の中で詫びつつも、エナ・キドゥが見せてくれた安堵の笑顔に、ようやく終わったのだという実感を感じていた。

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