第444話 六百六十六億年の孤独
「……六百六十六億年待ったよ。五十六憶七千万年を十一回ともう一回りするところだった」
自分と同じ顔をしたその若者は感慨深げに、そう言った。
「≪唯一無二の
「ああ、そういうふうに記号づけられているみたいだね。何しろ僕には名前なんか無いから。君のクロードとかディフォンとかそういうのと同じだよ。意味なんかないんだ」
≪唯一無二の主≫は、つまらなそうな顔でベッドに横になった。
クロードはその様子を見て気が抜けていくのを感じた。
何せ目の前でくつろいでいるのは自分自身と同じ姿であり、緊張感の欠片も無い。
そもそも何で自分と同じ顔をしているのか、この部屋は一体何なのか、この新たに生じた謎を口にしていいのか、非常に悩ましいところであった。
「困った顔をしているね。とても困惑しているようだ。僕をどう処すべきか迷っているのだろう。君がわざわざここまで来た理由は、好奇心からだけではない。敵か味方か見定め、敵と判断したなら、この僕をも殺すつもりだったのだろう」
「いや、それは……」
「隠さなくてもいいよ。君は必ずそうする。君にはそういう性質が備わっているんだ」
「あなたの方こそ、≪大神界≫を今のような状態にした俺への敵意や怒りは持ち合わせていないのですか?」
無気力な瞳に見透かされたような気がして、つい話題を変えようとしてしまったが、≪唯一無二の主≫は気に留めた様子もなく、肘を立て、掌を枕にしたままの格好で続けた。
「君への敵意など無いよ。≪始まりの四神≫やその他の神々のことを言っているなら、気にする必要はない。彼らはもうとっくに興味を失った押し入れの中の玩具のようなものだ。時々懐かしくなって、引っ張り出してはみるがそれでもう遊ぶことはない。≪大神界≫も同様だ。初期の試みが頓挫した後、片付けるのも面倒だったから放っておいたんだ。だが、その彼らのおかげで君という新たな興味対象を見出すことができたんだ。感謝しているよ」
自分以外の他者を単なる物のように扱おうとする部分に、ダグクマロたちとの類似点を感じた。
そして、それと同時に、≪唯一無二の
「おっと、君はこういうのが嫌いだったのだな。君のことを深く知ろうと思って、随分と研究したよ。実際に君になってみて、君が生まれ育ったルオ・ノタル転移前の人生とその後、本来であれば君が辿るはずだった第八天地球における人生を幾万通りも模擬実験し、実際に体験してみた。そういう意味では、いまや君以上に僕は君だと断言できると思う。だが、どの選択を取った人生も得てして、実に、つまらない人生だった。ありふれていて、起伏が無く、平坦で、小市民的だ。君のその持って生まれた性格といううか、
≪唯一無二の
その変化はおそらく俺の老化していく様を見せたのだろうが、今更何を見てもそれほど驚きはしない。
そんなことよりも、このような場所まで来て、自分と同じ顔を持つ相手に、自分の人生観を批評されるとは思わなかった。
少しむっとしてしまう。
「そうでしょうか。ルオ・ノタルでの今の生活はとても充実していますし、それに転移後の人生だって決して平穏なものではなかったような気がします」
「気を悪くするな。別に
≪唯一無二の
「お前という人間は、変化に対する順応性に優れている。自分が置かれた場所、状況、変化に順応し、その場に馴染もうとする。一旦馴染んでしまえば、その環境を享受し、それ以上を望むことも無い。それを維持しようとする意識が働くようなのだ。ガイア神の目には、目的意識もなく、向上心も持ち合わせていないごく平凡な大学生に映っていたようだが、実際にはルオ・ノタルの世界に順応し、≪異界渡り≫なる超越者の力を得ると、瞬く間に≪神≫の力を持つに至ってしまった。様々な者たちの思惑や干渉を受け、大海をただ漂流するだけの存在に見えた君がだ。振り返ってみるがいい。どの力も決して自らの欲するままに際限なく求めた力ではなかったはずだ。常に自分の平穏な生活を築く目的と周囲の人々を守ることがお前の行動要因だった。必要な時、必要なだけあればいいと思っていたはずだ。違うか?」
「話が見えてきません。俺がここに来た目的はこのような語り合いをすることではなく、あなたが敵となり得る存在かどうか確かめることにあります。率直に伺いたい。あなたは俺やルオ・ノタルをどうするつもりでいますか。そして、あなたがここに俺を招き入れた目的はなんでしょうか。決して、こんな無駄話をするためではないはずだ」
「この手のおしゃべりは嫌いか。つれないな。こっちは絶望的ともいえる年月と孤独に耐え、君を待ち続けたんだ。もう少しくらい、付き合ってくれても良さそうなものだが、まあ良い。そろそろ本題に入ろうか」
≪唯一無二の
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