第443話 唯一無二の主

散々悩んだ挙句に、≪唯一無二のしゅ≫に会いに行くことに決めた。


閉じこもって出てこないという話であったから、そのまま放っておくという選択もあったのだが、後手に回ることの不利や危険性を考えれば、やはり確かめに行くべきだという結論に達した。


≪唯一無二の主≫にとって、自分は≪大神界≫に大惨事を引き起こした張本人である。


自らが生み出した≪始まりの四神≫を失ったばかりか、それに連なる神々を次々滅ぼされ、十一階層からなる次元階層の秩序を完全に破壊されてしまったのだ。


もし、自分が≪唯一無二の主≫の立場であったならば、全くもって許し難い存在であると思う。



おそらく歓迎はされないだろう。


しかし、それでも会って、直に≪唯一無二の主≫の真意を確かめなければならない。


≪始まりの四神≫を討たれても尚、少しの動きを見せないのはなぜか。


ガイア神を出し抜き、≪機械神ゲームマスター≫を使って、ルオ・ノタルの世界に介入していた存在の正体が≪唯一無二の主≫であったなら、その目的は何であったのか。


なぜ、≪大神界≫を覆う外殻の破壊にこだわっているのか。


そして、敵なのか、味方なのか。


聞きたいことはいくらでもある。



クロードはルオ・ノタルを隔離する神造次元壁をそのままに、第十一天へと向かった。


目視による≪次元回廊≫の連続使用を行い、すっかり殺風景になってしまった宇宙を駆け昇っていく。


そして第十天を越え、≪大神界≫の上限とも言うべき場所にやって来たのだが、そこは先のない、暗黒の闇に染め抜かれたとばりのような場所であった。


その先はクロードの超感覚をもってしても見通すことができない。


本当の意味での行き止まりで、まさに世界の果てと呼ぶにふさわしい場所でもあった。


この分厚い闇の向こうに、はたして本当に、≪唯一無二の主≫と呼ばれる何かがいるのか、正直、半信半疑になりつつも、その闇に近づき触れてみた。


クロードが触れた場所は、まるでブラックホールを思わせる暗黒の渦になり、徐々にその開口を拡大させ、妖しく蠢き始めた。


クロードは、恐る恐るその指先から慎重に、暗黒の渦の中に入れてみたが、見た目のおどろおどろしさとは異なり、熱くも冷たくもない。


その闇は、≪神力≫になんら影響を及ぼすようなものではなく、あのダグクマロが≪呪念≫と呼んだ黒い靄とは全く別のもののようだった。


罠である可能性も無くはないだろうが、ここまで来て引き返すわけにもいくまい。


意を決して、その渦の中に飛び込んだクロードが見たのは、全く想像もしなかったような光景であった。




狭い、散らかった室内に、ベッドがひとつ。


折り畳みの小さなローテーブルの上には食べかけの見慣れぬ食べ物……、そうカップ麺があり、割りばしが刺さったままになっている。


「やあ……」


ベッドに腰を掛け、小さな端末を手にした若い男が声をかけてきた。


Tシャツとトランクス姿のその若い男は、寝ぐせの付いた髪をそのままに、無精ひげの生えた顔に生気のない笑みを浮かべている。


「お前は……」


クロードは、そのまま立ち尽くし、呆然としてしまった。


なぜなら、その若い男の顔が、自分がこの世で最もよく知る顔、すなわちクロードと同じ顔だったからである。



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