第442話 未知の存在

神核しんかく≫を失い、崩れ逝くダグクマロの≪神力しんりき≫が淡い光の粒子となって、クロードに吸い込まれていく。


≪神核≫を砕かれたダグクマロの顔は人形のように無表情で、今何を思うのか窺い知ることはできなかった。


≪大神界≫中に広がり分散していた微細な≪神力≫のうち、≪神喰≫の効果範囲外のものは、そのまま残っていた亡者たちの思念体と共に消え、辺りの風景は平穏を取り戻した。



ダグクマロの≪神力≫とともに、彼の記憶のヴィジョンが流れ込んできた。


ゴドゥバルドやザナイ・ミギチシギもそうだったのであったが、数百億年にもわたる長き時を存在し続けたもっとも古き神のうちの一人であっても、それほど他の神々との情報の量に差があるわけではない。


このことが意味するのは、この万能足りえない神たちの記憶もまた有限であるということだ。


時間の経過で古い記憶は失われ、あるいは美化されたり変質してしまう。


ダグクマロの記憶を読み解こうと思っていても、古い記憶のかけらは小さく不明瞭で、≪唯一無二のしゅ≫とやらの姿を見つけることは叶わなかった。


あれほど愛慕し、執着していたはずの≪唯一無二の主≫の思い出がひとつも無かったように見受けられた事実に、クロードは驚きつつも神々たちへの憐れみを押さえることはできなかった。


神も人も結局のところ、何も変わらなかった。


与えられてこなかったものを、愛を乞い続ける存在に過ぎなかった。


そう言う意味ではクロードが出会ってきた神を自称する者たちは、真に神たるものたちではなかったのかもしれない。


超越した力を持ちつつ、永遠に近い時を生きることができるが、皆どこか欠落しているようであったし、不完全だった。


不完全なものを生み出した≪唯一無二の主≫もおそらく同様であろう。



ダグクマロの記憶で辛うじて≪真理≫のラムゼストの姿は視ることができた。


ダグクマロは、ラムゼストに嫉妬の心を抱いていたようだが、それと同時に敬愛の念も持ち合わせていたようだ。

醜い嫉妬とラムゼストを慕う気持ち、そして≪唯一無二の主≫への独占欲に心かき乱され、苦しむダグクマロの様子が複数のメモリーで垣間見えた。


得られた権能神業≪死生しせい≫は、≪大神界≫内のすべてのものに、死、すなわち消滅に至る宿命を与え、それと同時に命を分かち、生み栄える権能を与えるというものであった。


それと同時に複数の≪御業みわざ≫も得られた。


その中に死せる宿命を一定時間停滞させることを可能にするものがあり、オルタたちが苦戦していた何度も蘇る神々の正体は、この≪御業≫の効果によるものだと分かった。



「終わったか……」


ダグクマロの≪神力≫の取り込みが終わり、クロードはルオ・ノタルを守るために展開していた神造次元壁を解除しようとその手前まで行った。


神造次元壁に触れて、それに込めた≪神力≫を回収しようと思ったのだが、ふと思い立ち、途中でそれを止めた。


≪始まりの四神≫を討ち果たし、もはやクロードとルオ・ノタルの存続を脅かすものなど存在しないかに思われた。


だが、まだ敵か味方か定かではない、未知の存在がいることに気が付いたのだ。


そう、≪唯一無二の主≫である。


自らが直接生み出した≪始まりの四神≫と≪大神界≫中のほとんどの神を消滅させられても、何も反応を見せないこの≪唯一無二の主≫なる存在をこのまま放置しておいても本当に大丈夫なのだろうか。


≪唯一無二の主≫は、ダグクマロたちが第十一天と設定した閉鎖次元に閉じこもり、俺の出現に関心を抱くまで、外部との接触を一切取っていなかったという話であった。

だが、このまま俺がルオ・ノタルでの暮らしを再開させた場合に、静観していてくれる保証はない。


もし、未だに俺への関心を抱き続けているのならば、今後どう出てくるか、直に会って確かめる必要があるのではないか。




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