第434話 ルオ・ノタルの空
一見何の変化も起きていないように見えたルオ・ノタルではあったが、地上では人々が屋外に出て集まっており、各々が空を見上げたり、指差したりして、不安げな表情を浮かべていた。
ルオ・ノタルの空は今、衝突する≪神力≫の影響で目まぐるしくその様相を変え、暗転と明滅、そして磁場の乱れにより出現したと思われる無数の光の帯が現われていて、雲の動きも不自然だった。
そう、戦いはこのルオ・ノタルのそれほど遠くない場所で行われていた。
思い当たる三つの≪神力≫とそれを囲む大小、二十を超える≪神力≫。
ダグクマロの≪神力≫はやはりこちらに向かってきてはいるものの、到着まではまだ少し時間がかかりそうだ。
クロードは大気圏外に出て、一番近くにいた覚えのある≪神力≫の持ち主のもとへ向かった。
大蛇の足を持ち、背に光の翼のある巨大な女神の姿になっていたエナ・キドゥは三体の神と戦闘中であった。
多対一であったこともあり、状況は劣勢であるようだがエナ・キドゥは身を挺してルオ・ノタルに敵を近付けまいとしていた。
クロードは全神力を圧縮させた≪人様態≫のまま、≪戦刃創製≫による≪神輝の剣≫を手に一瞬で、エナ・キドゥが対峙している神たちを屠った。
手ごたえの無さと≪神力≫の大きさから推測するにあまり高位次元の神ではないように思われた。
「ディフォン!無事だったんだね。本当によかった」
エナ・キドゥがこちらに気が付き、声をかけてきた。
「今のすごかったね。それにしても、姿こそ変わってないけど、さっき別れた時とはもうまったく別次元の神に見えるよ。いったい何があったの? 話し合いは成功した?」
「エナ、ゆっくりと話をしている状況ではないんだ。ダグクマロがこっちに向かってきているのを感じる。奴はどうやらルオ・ノタルを滅ぼす気らしい」
「滅ぼす?どうして?」
「さあな。奴の頭の中がどうなっているのかわからないが、そうすることが俺の未練を断ち切ることになるらしい。俺を仲間に引き入れたいらしいが、逆効果であることがわかってない。お前たち神々の考えることは逐一俺には理解し難いよ」
「そんなこと意地悪なこと言わないでよ。ダグクマロ様といえば、神々を束ねる≪始まりの四神≫の中でも最も偉大な神と言われているし、わたしなんかの考えの及ぶところじゃないけど……」
「≪始まりの四神≫のうち、ダグクマロ以外はもういない。色々あって、戦いになったんだが、≪不変≫のゴドゥバルドと≪流転≫のザナイ・ミギチシギは俺に取り込まれた」
「ひえ~、そんなとんでもないことになっていたんだね。突然、各階層次元の生き残りの神たちがこのルオ・ノタルに一斉に向かってきたけど、それもそのことと関係があるのかな」
「わからない。わからないが、今、オルタとヴェーレスが戦っている奴らも今の三体と同じ目的だとすると……、直接奴らから聞いた方が早いか……」
「そ、そうだ! オルタとヴェーレスだけど、君の子供たちさ、二人とも≪神力≫をもった人間じゃなくて、あれは完全に≪神≫だったよ。それも第三天の神であるわたしよりずっと大きな≪神力≫を持ってた。ほんとに君たちのせいで自信失っちゃうよ。あの双子ちゃんたち、人間の女性から生まれてきたのに、こんなことってありえると思う?」
そのようなことを聞かれても答えようがない。
やはり、自分の目で確認するためにもオルタたちと一度、合流する必要がありそうだ。
「エナ、ルオ・ノタルを守っていてくれてありがとう。すまないが、引き続き、ここを頼む」
クロードはそう言うと、主戦場になっているオルタとヴェーレスのもとへと急いだ。
背後から、「ちょっと、待ってよ。私には、それだけ?」とエナ・キドゥの非難めいた声が聞こえたが、この件については後でじっくり詫びることにしよう。
身を犠牲にしながらもルオ・ノタルを守ってくれたことには、深く感謝しているのだ。
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