第433話 不変のゴドゥバルド
≪魔力≫で作った
疑似神力の膨張による圧とその表面を蝕む特有の作用により、障壁内のクロードも決して安心していられる状況ではなかった。
この疑似神力は、≪魔力≫よりも≪神力≫に引き寄せられるという性質がありはするものの、≪魔力≫と触れている部分についてはしっかりその浸食が及んできているのだ。
冷静になって考えてみれば、バ・アハル・ヒモートがそうしたように、特殊な金属などの物質で防御壁を作ることも有効であったとは思うが、もうすでに遅い。
今はただ、魔力障壁の内側から浸食を受けた部分の補修をしつつ、この余波を耐え忍ぶしかない。
≪疑似神力≫が≪神力≫や≪魔力≫と大きく異なるのは物質に対する透過性を持たないことだ。
物質を構成する原子核と直接衝突することでエネルギーを失っていき、最終的には消えて無くなる。
これはやはり物質界の住人である古代エルフ族が、エネルギー資源として発明したテクノロジーの産物であるからだと思うが、このことにゴドゥバルドが気付くかどうかなのだ。
神造次元壁を消し触媒を無くした上で、物質の壁で自らの身を守るのが最も被害を抑える方法であると思うのだが、さて、どう出るか。
魔力障壁にかかる外圧が消えた。
激しく人工的な光を放つ≪疑似神力≫は遠ざかっていき、視界が広がっていく。
影響を受けたと思しき範囲は塵一つない澄み切った宇宙になっていた。
クロードが魔力障壁を解き、周囲を確認すると、その超感覚により二つの存在のみを認知できた。
相変わらず無傷で平然と漂うデミューゴスと、消耗した様子のゴドゥバルドだった。
この被害状況を見るに、おそらくゴドゥバルドは≪唯一無二の主≫がいるという第十一天がある方向に疑似神力が向かわぬよう何らかの対策を取ったらしい。
その方向だけ被害が軽微で、ゴドゥバルドの背面に広がる宇宙には幾つかの無事な≪世界≫の姿も確認できた。
ゴドゥバルドの≪神力≫は、見る影もなく小さくなっており、もはや第十天の神たる威厳は感じられない。
半ば放心状態にあるようで、しかも油断しきっている。
クロードはそのゴドゥバルドのもとに全力で飛んでいき、その赤い衣に包まれた神体を右腕で刺し貫き、≪神核≫を打ち砕いた。
時間が惜しいこともあったが、もはやこのゴドゥバルドと言葉を交わす気持ちにはなれなかった。
先ほどの神造次元壁の箱のように、また妙な小細工をされては困る。
『……何を……する。こんなことをして何になる。なぜ、不変たる≪大神界≫にいらぬ波風を立てようとするのだ。そして永遠に在り続けるべき、この俺を……よくも……』
ゴドゥバルドの醜く歪んだ死に顔を眺めながら、≪神喰≫のスキルでその全てを取り込んでいく。
ゴドゥバルドの姿が霧散し、すべての≪神力≫の粒子がクロードの身の内に納まると、情報の奔流がクロードの意識に流れ込んでくる。
おそらくこれはゴドゥバルドの記憶だろう。
その場面のほとんどにダグクマロが登場していて、いかにゴドゥバルドがダグクマロの目を気にしていたのかがわかった。
この他にもダグクマロに関して何か情報が得られる可能性もあったが、今はそのひとつひとつを呑気に鑑賞している場合ではないので、クロードはゴドゥバルドの記憶の欠片に意識を向けるのをやめた。
天空神業の≪天空視≫を使って、ルオ・ノタルの世界の上空から地表の様子を眺めてみた。
イシュリーン城付近はもちろんのこと、世界全体をざっと見渡してもどうやら無事のようだった。
ダグクマロの姿はまだ見えないし、どうやら間に合ったようだ。
『クロード……君、なかなか見事な……脱出劇だったね』
弱々しい念波が届き、そちらに目をやる。
そうだ。
こいつもいたのだった。
放置しておくとまた何か災いの種になりかねない。
クロードは、デミューゴスを拾い上げ、≪異空間収納≫に放り込むとそのまま≪EXスキル≫の≪次元回廊≫を使い、一気にルオ・ノタルに移動した。
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