第428話 神産みの儀

『そうか、お前があの時のヒルコか』


ダグクマロは表情を変えることなく、デミューゴスの方を見下ろした。


『へえ、≪始まりの四神≫の一柱にして、神々の首長たるダグクマロ様に存在を知られていたとは光栄の極み。ありがたくて、涙が止まらないね』


デミューゴスは相変わらず緊張感のない様子で両腕を広げてみせた。


『私がお前の生みの親だ。ここにいる≪流転≫のザナイ・ミギチシギ、そして≪不変≫のゴドゥバルドの三人で神産みの儀を行い、その結果お前が産まれた』


デミューゴスの動きが止まった。


『あれは……そうだ。この≪大神界≫が十回目の次元壁破壊が試みられたすぐ後のこと。我らが生み出した子神、孫神、その先に連なる神々の総数が八百万近くにもなろうという頃の話だ。それだけの神々が生まれても尚、一向に≪大神界≫と外の世界を隔てる次元壁殻の破壊をし得る神の誕生が為しえていないことに苛立っていた私はこれまでとはまったく違う方法で神を産みだすことを試みた。本来、神産みの儀は二神間の≪神力≫の融合により新たなる特性の神を産みだす術儀だが、それを三神で≪神力合成≫を行ってみたらどうなるか。私の≪死生≫とザナイ・ミギチシギの≪流転≫、ゴドゥバルドの≪不変≫の性質が混ざり合い、その形質を引き継いだ未知の神が生まれるという目論見であったが、実験は失敗に終わった。生まれたのは神ではなく、得体の知れない何かであったからだ。生まれたてのお前は、こちらの呼び掛けに何も反応せず、人格と知能はないと判断された。物質でもなく、霊体でもない不思議な性質を持っており、私としてはしばらく実験と観察を続けようと考えていたのだが、お前の不気味さと醜悪さに耐えかねたザナイ・ミギチシギの独断により何処かに無断で処分されてしまったのだ。潔癖で完全主義者のザナイ・ミギチシギにしてみれば自らの≪神力≫を分け与えた存在がこのような失敗作に成りおおせてしまったことを許せなかったということらしい』


『……そうか、それが僕のルーツというわけか。お前たち三人のくだらない実験によって生まれ、愛されることもなく、ついにはそこの女に捨てられたというわけだ。なるほど、それが聞けただけでもここまで来たかいがあったというものだ。だが、お前たちにしてみれば、残念だったな。僕を最下層次元に捨てさえしなければ、≪大神界≫の秩序は守られたままであっただろうし、この僕に殺されるということも無かったわけだからね』


デミューゴスが反転した≪神力≫を拡張させ始め、見る見る大きくなってゆく。


『話はまだ終わってないぞ、ヒルコよ。そして、新たなる神ディフォン。私はお前たちをこの≪大神界≫を導く我らの同胞として迎え入れるつもりだ。この場にいる我らで≪大神界≫を構築し直すというのはどうだ? ディフォン、お前が気にかけているルオ・ノタルはそのまま残すことを約束しよう。それにヒルコよ。お前は何が望みだ。お前の要望も叶えてやってもよいぞ』


『何を言い出すかと思えば、くだらない。どうしてお前たちはこの状況で、全てが自分たちの思い通りに行くと思うんだ? くくくっ、頭が悪いのか、それとも自分たち以上の存在に出会った経験が欠如していくのか。お前たち、自分たちの≪神力≫と僕たちの≪神力≫の大きさを比べてみろ。三人全員足しても、第九天の神々を取り込んでさらに力を増したクロード君一人にも及ばないぞ』


大きく広げた絨毯のような形状になったデミューゴスが、突如、≪流転≫ザナイ・ミギチシギに襲い掛かった。


『さあ、抱き締めておくれよ。おかあさん!』


急襲してきたデミューゴスに包まれ、≪流転≫ザナイ・ミギチシギは為す術もなく完全に覆われ見えなくなった。

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