第426話 星々の海

成り行きで同行することになってしまったが、デミューゴスに気を許したわけではなかった。


そもそもこのデミューゴスがルオ・ノタルを破滅に導きさえしなかったなら、俺が異世界に送り込まれることもなく、今の様な状態にもなっていなかったのだから。


デミューゴスによって未来を狂わされた者は数知れず。


見方によれば、諸悪の根源といっても過言ではないのだ。


同行者としては心強いが、敵に回るリスクも常に孕んでいるとクロードは警戒していた。


だが、当のデミューゴスはクロードがそのような思いを抱いているのを知ってか知らずか、第九天に侵入した後も協力者としての姿勢を変えなかった。


もし、敵に回る気であればクロードにこれ以上力をつけさせる必要などないのだが、第九天にいた五柱の神々を≪神喰≫で取り込むことに協力し、自らは手を出さなかった。


クロードの方から、その体では不便であろうし、別の神も一応捕食しておくべきではとデミューゴスに提案したが、「その必要はないよ」と断られてしまった。



クロードは第九天にいた全ての神の≪神力≫を己が力に加え、さらに力を増すと、デミューゴスと共に第十天を目指した。


『クロード君、聞こえないか?』


デミューゴスにそう言われ、周囲の音に意識を向けるが、ここは宇宙空間であり、真空状態であることから、無音だ。


音など聞こえるわけがない。


クロードの発している声は物体としての身体を持たない者同士の≪念話≫とも言うべきものであり、デミューゴスが発している思念もまた物質的な法則とは異なるものだ。


『すまない。言い方が悪かったな。音の波ではなく、光の波を見てみろ。感じないか? ごく微かにだが電磁波に乱れがある。この次元階層全体が震えているんだ』


デミューゴスに言われた通り、五感に頼らずに超感覚による把握を試みると、確かに微弱な揺れを感じる。


次元震動とやらの予兆だろうか。


そう訝しんでいると、その揺れは徐々に大きくなり、そして突如、頭上の次元壁が封神結界ごと崩壊した。


いや、頭上だけではない。

下層も、そのまた下の下層もその先も、各次元階層を隔てていた神造次元壁が崩れ去っていく。


『クロード君、下ばかり視ているんじゃない。来るぞ、上からだ。しびれを切らせたのか、連中、自ら降りてきたぞ。そしてやはり、ガイア神はうすうすとは気が付き始めていたようだが、この≪大神界≫にはもともと各階層を隔てる次元壁など無かったのだ。≪大神界≫全体を覆う次元壁は確かにあるが、その底を打ち破った先に階層があるのではなく、内側から押し広げられ歪な形になっただけなのだろう。連中の中に、この≪大神界≫を十一の階層に区切った奴が存在する。狙いは十二番目の階層次元に到達することではなく、この≪大神界≫全体を覆うこの次元壁の殻を完全に破壊することだ。奴らの力ではそれが叶わなかったのであろう。≪大神界≫を覆う唯一にしてまことの次元壁殻の外に何があるのかは知らないが、次々と神々を実験のように産み出していたのは、奴らの力では変形させることしかできなかった次元壁の殻を打ち破れる≪新たな力をもつ神≫という道具を作り出すことが目的だったんだ。滑稽、滑稽だよ。親子ごっこだの、兄弟ごっこをさせていたのも情や欲望、その他の不確定要素により混沌の中から未知の可能性を見出すためであったというわけだな。哀れな神の操り人形たる人間と何も変わることない、ただの実験材料。この僕も、他の神々も、皆同じだ。その目的のためだけに、この世に生み出されてきたただの道具に過ぎなかったのだ」


デミューゴスは天上を睨み、そして遥か遠い銀河の星々の海から舞い降りてくる三柱の神の姿を眺めながら、独り言のように捲し立てた。

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