第425話 再会の抱擁

『それにしても、なんとも厄介な体を用意してくれたものだ。これでは再会を祝して、君とハグすることすらままならない。危険極まりないよ、この体は』


デミューゴスはそう言ってお道化どけながら抱きしめる真似をした。


俺は当然それを無視する。


『まあ、再会といっても僕の体感ではあっという間の出来事だった。君が放り込んだあの異空間は時が静止していたからね』


「そんなことより、デミューゴス。その体を構成しているエネルギーは一体なんだ? ≪神力≫と打ち消し合う性質を持っているようだが、心当たりはあるか?」


『ふむ、ガイア神の推測と僕の考えを総合すると、おそらくこのエネルギーは≪神力≫だ。別物じゃない。≪神力≫はその神によって様々な属性を持つ。だが、そう言った属性とは別のベクトルで態様を変える性質があるとすればどうだろう。クロード君は疑問に思ったことはないか? なぜ同じ≪神力≫同士が闘いにおいて互いを消滅させる手段になり得るのか。自他の≪神力≫が同じものであるならば、反発ではなく同化あるいは融合が起こりそうなものじゃないか。僕の考えでは、≪神力≫には座標軸が異なる別の変位があるんじゃないかと思うんだ。神々は一人一人この指標が異なり、それゆえにどの神の≪神力≫も少しずつ差異があると考えるのが自然だ。同一ではないから打ち消し合ったり、反発したりする。君の≪神力≫を取り込む異能は相手の≪神力≫を自分の≪神力≫と同化可能な状態に変化させる力でもあるのだろう。おっと、話についてこられているかな? このぐらいでやめておくが、とにかくこの力は≪神力≫なんだ。ただ、酷く淀んでいて、破滅的だ。クリエイティブな≪御業≫をもたらす≪神力≫の段階を仮に光と呼ぶなら、僕の身体となったこの≪神力≫は深淵の闇だ。破壊しかもたらさない禍害の力だ。おびただしい数の負の感情や思念が、ガイア神に取り込まれた六柱の神のそれと共鳴し、増幅したことで≪神力≫はもとより≪神核≫をも染め上げてしまったんだろう。君に≪神力≫の隔壁を砕かれ、溢れ出した呪念とも言うべきものが、神そのものの有様をも変えてしまったのだとすると、神々の操り人形に過ぎない人間というものの存在もあながち……って、おい!僕を置いてどこへ行くんだ』


「知りたいことはだいたい分かった。先を急ごう。時の経過は奴らの利になる」


クロードは第九天と第八天を隔てる次元壁に向かった。

それを不服そうにデミューゴスも追ってくる。


どうやらまだ話足りなかったようだが、本当に時間がない。


残る上位次元神たちからすれば、もはや自分たちの足元にまで迫ってきている状況であり、この第八天で起きたことも確実に把握しているはずだ。


上位の階層次元に行くほどに時が過ぎ去るのが速いようであるし、そうであるならば時を費やすほどに彼らに対策を練る時間を与えてしまうことになる。

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