第424話 無二の親友

神でも、人でも、いや純然たる物質ですらないというデミューゴスが、あの対消滅の性質を持つあの反粒子的エネルギーに触れたらどうなるのか。


正直なところ、見当もつかなかった。


自らを捕食した相手を乗っ取ったり、逆に捕食した対象に成りおおせたりするデミューゴスであっても、ただ消滅して終わるかもしれない。


だが、かつて彼は如何なる方法でも死ぬことができないのだと言っていた。

最初から生きていない自分は死ぬことすら出来ないのだと。


それゆえに、実在と非実在の間の幽世かくりよのように虚ろで混沌とした存在であるデミューゴスであれば、あの正体不明のエネルギー体と化したガイア神をも乗っ取ることが可能ではないかとクロードは思ったのだ。


そしてこれは、危機的状況に対する半ば、やけくその様な思い付きに過ぎなかったので、失敗したとしても次の手を考えればいいぐらいの期待しか持っていなかった。


無責任な言い方をすれば、失敗しても別に構わないと思っていたのである。


デミューゴスとは別に親しい関係には無かったし、正直処理に困っていたところもあった。


『ディフォン、貴様何をした。それに、この妙な物体は何だ?』


予想通り、デミューゴスは対消滅の影響を受けていなかった。

ガイア神のエネルギー体の中で漂い、丸みを帯びた楕円形の表面に細い目を出現させて周囲の様子を探っているようだった。


「それが、お前が言っていた出来損ないのヒルコだ。デミューゴス!そいつの身体を乗っ取れるか?」


クロードの呼び掛けで、デミューゴスはその全身から反粒子的エネルギーを取り込み始めた。

どうやら反粒子的エネルギーを捕食しようと試み始めたようだった。


そして、やがて自らも反粒子的エネルギーの塊のようになってガイア神の全身に散って行った。


もはやどの部分がデミューゴスなのか区別はつかない。


『ううっ、妙な気分だ。自分が自分でないような、この空虚さは一体……。駄目だ。何も考えられぬ。思考が……、世界が……閉じて…………ゆ、く』


そのままガイア神は沈黙し、宇宙空間の真っただ中で棒立ちのようになった。


最終的にどうなったのか。


その様子をクロードは固唾をのんで見守った。



『……クロード君、どうやら僕との約束を守ってくれたようだね。さすがは僕の無二の親友だ。ここは、そうか、第八天……。随分と高位次元までやって来たものだ』


「デミューゴスでいいんだな?ガイア神はどうなった」


『ガイア神は、僕になったよ。複数の記憶が混在してあやふやな部分もあるが、おかげで彼らの記憶も僕のものだ。好都合なことに、僕が探し求めていた女の記憶もガイア神の記憶の中にあった。第十天≪始まりの四神≫のうちの一柱、ザナイ・ミギチシギ。僕を産み、そして最下層次元に捨てた女神。ここから二つ上の次元にいるらしい。クロード君と目的地は一緒だ。そこまでともに行こう』

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