第423話 神力の対極
防戦一方、というよりも逃げるしか手が無かった。
幸いにして速度は自分の方がわずかに上のようで、こうして全力で移動しているうちは捕まることはない。
だが、いつまでもこうして逃げ続けているわけにもいかず、かといってこれほどまでに危険な存在を放置しておくわけにもいかなかった。
全てを無に帰さしめ、己も無に帰る。
先ほどの話を聞くにガイア神は何をするかわからない状況であり、こうしてまだ自分を標的として追ってきているはいいが、そのうち興味を無くしてやけを起こされても困った事態になりそうであった。
クロードは引き離してしまわぬように、一定の距離を保ちつつ、ガイア神の様子を観察した。
クロードの≪神力≫で構成された体は物質を透過するのみだが、ガイア神に触れた小惑星や岩石は、先ほど自分の≪神力≫の一部を消滅させられた時と同様に跡形もなく消え去っている。
そして何かを消滅させる毎にガイア神から感じるエネルギーは少しずつではあるが減少しているようであった。
その減少量は≪神力≫との対消滅時には大きく、物質の場合は極微少だった。
これは≪神力≫と物質のもつ何らかの要素の差であるのかもしれないが、それは俺にはわからない。
言えるのは、あの反粒子的エネルギーが≪神力≫の対極にあり、その同等量の≪神力≫を対消滅させてしまう性質を有しているなら、正面からぶつかるのはまずいということだ。
反転前のガイア神の≪神力≫の量は、クロードの≪神力≫の八割、多くて九割という感じであった。
その≪神力≫と反粒子的エネルギーが同量のエネルギーであると仮定すると、正面からぶつかり合った場合、俺の≪神力≫は一割ほどを残して、ほとんどが消滅させられてしまうことになる。
対消滅後、ガイア神がどうなるのか。
倒しきることができる確信が無くては、一か八かの勝負に踏み切るわけにはいかないのだ。
どう対処すべきか考えていると、ふとあるアイデアが浮かんだ。
EXスキルの≪異空間収納≫に放り込んでいたアレが使えないだろうか。
『どうした? いつまでそうして逃げているつもりだ。お前がその気ならば、お前以外の者から無に帰すことにするぞ。例えば、第一天……ルオ・ノタルとかな』
ガイア神はわざわざこちらに聞こえるように≪念波≫で言うと急に進路を変えた。
下層次元に向かう気らしい。
クロードは慌てて、ガイア神の後を追った。
罠であるのはほぼ間違いない。
だが、もし自分が追っていかなくてもガイア神は言葉通り、第一天を無に帰すだろう。
それだけの力は間違いなくある。
第一天に残してきたエナ・キドゥたちでは防ぎきることはできないだろう。
『ようやく、その気になったか。さあ、おとなしく儂に飲み込まれろ』
予想通り、ガイア神は身を翻し、人型に凝縮していた反粒子的エネルギーを解放し、風呂敷状に広げるとクロードを包み込もうとした。
触れただけで対消滅してしまうという性質上、≪神力≫同士の衝突時と異なり、相手に接触さえすればいいというそういう戦い方であった。
もちろん、自身の身を削る行為であり、ガイア神を構成している反粒子的エネルギーも同等量消滅するはずである。
まさに自滅をも意に介さない自己犠牲攻撃だった。
クロードは必死の形相で反粒子的エネルギーの包囲から抜け出し、それと同時に≪異空間収納≫からデミューゴスを取り出し、中に放り投げた。
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