第421話 クロードの怒り

ガイア神の剝き出しの≪神力≫と正面からぶつかり合った。


それは互いの全身全霊であり、剥き出しの己の存在そのものの衝突であった。


二人を取り巻く空間は歪み、その衝突の余波が周辺の惑星を飲み込んでいく。



これまで数多の神々との戦いを経てきたクロードであったが、これほどまでに己を脅かしかねない強大な≪神力≫の持ち主を相手にするのは初めてのことであった。


御業みわざ≫という小細工を挟む余地のない力と力の相克。


今の自分は、討ち果たした神々を取り込んで、もはや並び立つ神などいないのではないかと思うほどの≪神力≫を得た自信があった。


第十天の神々にさえも劣らないと踏んでいたのだ。


その自分と存在の消滅をかけて争うまでの≪神力≫を持つに至るため、ガイア神は如何なる手段を用いたのか。


その答えは完全に同化しきれていない、あの歪な≪神核≫の形にあると思われた。

癒着し、半ば結合しかかった七つの≪神核≫が互いを取り込もうと、引き合い蠢動しゅんどうを繰り返しているのだ。


おそらくガイア神のみの力ではないのだろう。

そうなると残り六つの≪神核≫は同じ第八天の神々のものか。


それらの半結合した≪神核≫の周りを覆っている黒い靄のように見える何かも力の増幅に一役買っているのかもしれない。


だが、所有する≪神力≫の量は拮抗しているものの、クロードにはこの争いに屈し、自分が敗れてしまうビジョンはなかった。


それは、このガイア神が得た≪神力≫が意思による統一が為されていないことから、その働きに多くの欠陥を抱えていることに気が付いたからだ。


こいつはただデカいだけ。

≪神力≫のベクトルはちぐはぐで、≪神力≫の隅々まで完全にコントロールできていない。


クロードは、ガイア神の≪神力≫を押しとどめながら、少しずつではあるが≪神力≫の活動の緩慢な部分を攻撃し、そこからの侵入を試みた。


罠かもしれないが、その部分は反応が鈍く、防御の動きが弱い。


一方のガイア神は、そうしたクロードの動きに気が付いていないかのように、あくまでも力業で愚直に正面から≪神力≫を突破しようと気勢を上げている。


自らの≪神力≫で相手の≪神力≫を穿ち、手薄になった隔壁を破壊し、≪神核≫を砕く。

それと同時に相手の攻撃で手薄になった≪神力≫を補充し、自らの隔壁を修復する。


この二つのことを同時並行に行わなければならない。


互いの≪神力≫を送り込み、≪神核≫を守る隔壁の破壊を目指す戦いが始まったのである。


「まったくもって、お前は恐るべき理外の怪物よ。禁忌の外法により得たこの力をもってしてもこうして膠着状態を維持するのがやっとであるとは……」


ガイア神は膠着状態といったが事実はそうではない。


別ルートで攻めていたクロードの≪神力≫はもう隔壁の手前にまで及んでいたのだ。


やはりこの巨大なガイア神の≪神力≫には、状態を掌握しきれていない部分があるようだ。

それはまだ結合しきれてない他の神の意識が残っている部分なのであろう。


「ガイア神、もうやめろ。お前では俺に勝てない。この第八天には俺の故郷の星もあるのであろうし、その神であるお前は殺さず生かしてやる。だから、攻撃の手を引け!」


「お前の故郷だと? そんなものはもう無い。儂が管理する≪世界≫群に棲む生命は全てこの≪合神ごうしん≫のための供物となった。六百八十一億七千八百三万五千八百八十九の作品と第八天の同胞はらからをお前ひとりを滅ぼすためだけに費やしたのだ。地球……、あれは儂の最高傑作であったがそれももはやどうでも良いこと。儂自身というものが間もなく消えて無くなるのだからな」


故郷の惑星はもう無い。


その言葉に後頭部を殴られたかのような衝撃を受けた。


その地球という惑星で自分がどのような人生を送っていたかはわからない。

だが、きっと自分にも家族や親しい者たちがいたであろうし、その全てをこの醜怪な存在を生み出すためなんかに犠牲にしたというのか。


やはり父娘だ。

≪異界渡り≫を得るために、自らが生み出した生命体を平然と供物に利用するルオ・ノタルたちに似ている。


もし、シルヴィアや双子たち、それにルオ・ノタルの世界で共に過ごした人々が同じ目に遭ったとしたなら、それを自分は許すことができないと思う。


記憶が無いので実感がわかないが、それだけのことをこのガイア神は故郷である地球にしたのだと思うと怒りがふつふつと湧いてくる。


怒りだ。

そう、怒りが必要だ。


この独善的で冷酷な自らの生みの親を滅ぼすには、躊躇いも罪悪感も焼き尽くしてしまうような強い怒りが……。

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