第420話 量産品の中のひとつ

ガイア神の話を聞くほどに、自分がこの神にとっては無数にある量産品の中のひとつにすぎないのだということが理解できてきた。


そして、それと同時に落胆している自分に気が付き、少し驚いてしまった。


もしかすると、転移前の家族の記憶がない自分にとってガイア神は、唯一わかっているルーツのようなものであるし、創造主はある種、親のようなものと勝手に都合のいい解釈をしてしまっていたのかもしれない。



「あなたが俺に何をさせたかったのかはわかった。だが、望まぬ結果にならなかったのは俺のせいじゃないだろう。俺を憎むのは筋違いだ」


クロードは、ガイア神をその場に残し、去ろうとした。


仮にも自分の造物主であるし、邪魔さえしないのであれば手にかけるような真似をしたくなかったのだ。

転移させられ、危うく殺されかけたことは許せなかったが、その意図はどうあれ、この世に生み出してくれたことには、最低限の感謝をしなければなるまいと思ったからだ。


「待て、どこに行く気だ。お前はこの先、どこにも行けぬ。ここで朽ち、消えゆくのみだ」


ガイア神はそう言うと座禅のようなポーズをやめた。


ガイア神の口からは苦悶の声が漏れ始め、見る見るうちに姿形が変貌を遂げていく。

身体のあちこちが不自然に盛り上がり、膨張を始める。


「ガイ……ア、騙したな」


ガイア神の右頬の辺りに突如、盛り上がり、出来た別の顔が苦しそうな声を上げた。

精悍な若者に見える顔だった。


「く、苦しい……」

「殺して……、いっそ……」

「……グ……ゥ……」

「嫌……だ」


新たな顔が出現してきたのは右頬だけではなかった。

全身の様々な部位に肉の塊のような大小六つの異なる男女の顔が現れたのだ。


気が付くとガイア神はもはや人の姿を取っていなかった。


醜悪で巨大な塊としか形容の仕様がない見た目であった。


手足もあるにはあったが、生えている方向もちぐはぐで、何より本数が多すぎる。


「アアァ、ウィ……あがぁあ……。ああ、ああ、儂だ。儂はわしだ。儂だ。お前のせいだ。ワシのせいだ。こんな姿に。築き上げてきたすべてと増やし……減らし……育んだ作品のすべてと引き換えにお前を滅ぼし、儂と俺を滅ぼすために……代償を支払った。禁忌を……手に入れた……力……」


ガイア神の言葉は支離滅裂であり、元々あった頭部についている目は白目を剥き、血の涙を流しているかのように見えた。


そして巨大な一つの≪神力≫に見えていたそれはやはり七つの≪神力≫の不完全な集合体であるようだった。


ひと回り大きいガイア神の≪神核≫を中心にそこから他の六柱の神の≪神核≫が生えているような見た目で、その全体を暗く淀んだ何かが覆っている。


かつてクロードが異世界転移させられたばかりの頃に、その身を覆いつくしたことがあった呪詛のような断片的な思念群に似ていないこともない。


「逃がさぬ。絶対に、お前だけは儂の手で始末をつける」


ガイア神の目に黒目が戻った。


それと同時におぞましい不定形の≪神力≫の巨体がクロード目掛けて襲い掛かって来た。


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