第419話 ガイア神の誤算

失敗作。


その言葉がやけに心に残った。


自分には親の記憶はないが、もし両親に失敗作と罵られたなら、きっと同じような気持ちになるのではないかとクロードは思った。


そして初めて言葉を交わしたはずのこのガイア神になぜか言い知れぬ懐かしさと親しみを覚えていたのだが、この「失敗作」という言葉がそれら好意的な感情を反転させ、憎悪とも憤怒とも思える仄暗い気持ちにさせていくのを内心感じていた。


勝手に創り、勝手に異世界に転移しておいて、この言い様。


「ルオ・ノタルは、俺が出会ったときにはもはや消滅寸前だった。それに俺が直接手を下したわけじゃない。むしろ俺を取り込もうとしていたふしさえあったんだ」


「お前の魂魄には、ルオ・ノタルの傷ついた≪神核≫をリペアしつつ、その機能を補助する≪疑似神核ぎじしんかく≫を仕込んでいた。娘がお前に出会ったなら、それを取り込んでくれるだろうことを期待してな。だが、儂の計算を狂わす事態がルオ・ノタルの地に送り込んだお前の体内で起こってしまった。異世界の環境に適応させるために、お前の肉体は現地の素材で、ルオ・ノタル仕様のものに作りかえたのだが、その過程で儂の計算を狂わせる何かが混じり入ってしまったようだった。それは質量を伴わぬ無数の思念の残渣のようなものだと儂は考えている。今となっては検証する術もないが、とにかくも娘が考案した魔力塊と≪疑似神核≫、そしていくつかの不確定要素がお前とそれらを結びつかせ、儂ら神と似て非なるものを生み出すに至ってしまったのだ。≪神力≫により己が存在を実現させることができるという一点においてはお前は儂らと同じだ。だが、他者を取り込み自らの存在自体を変質、進化させるお前は≪混沌ケイオス≫そのものだ。定まった器が無く、その存在は移ろいやすい。お前は神々を取り込んでも自らが自らであることに疑いを思ってはいまい。だが、造り主たる儂の目からみれば、お前はもはや原形を留めぬ≪混沌ケイオス≫であり、醜悪な怪物そのものだ」


「……俺は、俺だ」


クロードは必死に言葉を絞り出そうとしたが、出てきたのはこれがやっとだった。


思い出の喪失による記憶の改ざん、そして神々を≪神喰≫で取り込む際の情報の奔流が自分に与える影響。

その可能性を考えないではなかった。


火神オグンを取り込んだ後、今までの自分よりも少し好戦的な性格になったような気がしたし、その後も何度か自分の性格や考え方の変化に違和感を覚えていたからだ。


「本来のお前は、他人や環境に流されやすく、社会が作り出した常識という枠から決してはみ出ようとはしない言わば≪無自覚の奴隷≫とも言うべき存在であった。能力的にも何ら突出したところが無く、だがその代わり何かが著しくかけているようなこともない。儂の演算では、異世界に適応し、我が娘ルオ・ノタルにたどり着くためのちょうどいい性能であるはずであった。だが、何者かが儂の企てに介入をしてきたことでさらに事態は悪化した。≪亜神同化あしんどうか≫、これは儂がお前に与えたものではない。お前に与えるはずであった得能を何者かが書き換えたのだ。≪漂流神≫との遭遇を回避するためのスキルが≪恩寵≫により組みこまれるべきところを、その何者かの介入により、逆に神を弑し、自らの糧とするというおぞましくも畏れを知らぬ異能がお前に備わってしまった」


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