第417話 故郷の宇宙

第四天、第五天、第六天と進んでいくほどにその階層に所在する神々の個体数は減っていくのではないかというクロードの推理は当たっていた。


感じ取れる≪神力≫の数が第五天では七十二であったのが、第六天ではその半数の三十六になった。


個々の≪神力≫の大きさは上位次元に昇るほどに大きくなっていったが、それ以上にクロードの≪神力≫の増大幅が大きかったため、その実力差は開くばかりで何の障害にもならなかった。


ここまでの道すがら、次元震動が発生していないところを見るとどうやら各次元階層が耐えられる≪神力≫の総量の限界値は上位次元に行くほどに大きくなっていくようで、少なくとも一つ下の階層次元からその全ての神が遡行して来ても耐えられるくらいの余裕があるのだろうと推測できた。


かつて下位次元階層からの反乱の際に起きたという次元震動の教訓を生かしてのことだろうか。

万が一同様の事態が起きた場合でも、次元震動が引き起こされぬように、各階層次元に存在を許している神々の定員についてもかなり抑えたものになっているのかもしれない。


クロードはこの第六天までの各階層次元の神々を狩り、その力を取り込みながらやって来た。


第四天は、首座であったマザ・クィナスを失い混乱の極みにあったし、第五天と第六天の神々は第三天の時と同様に積極的にクロードに挑む様なことはせず堅守と時間稼ぎに徹していた。



大きな変化があったのは第七天からであった。


何と一柱の神もいなかったのである。


第七天に広がる宇宙空間には、無数の≪世界≫の残骸が漂っており、生命らしき気配が何一つ感じられない虚無の海と化していた。


≪肉獄封縛≫のように何か≪神力≫を封じ込める≪御業≫のようなものがあって、神々が姿を隠し、やり過ごそうとしている可能性もあると考えたクロードはその残骸である巨大な岩石群を縫うように進み、第七天の神々の姿を探したがどこにもそれらしきものは発見できなかった。


荒涼とした第七天の風景を見る限り、ここで何かが起こったことは間違いない。


生き残りが一人もいないということから、神々が互いに相争った可能性は低いと思った。

そんなに都合よく相打ちで終わるということは考えにくかったし、そうであるならば何者かが自分よりも先にここを訪れ、無慈悲にもその管理する≪世界≫ごと、神々を滅ぼしていったと考える方が自然だ。


第七天で為すべきことは何もないと判断したクロードは、さらに上の第八天に向かうことにした。


第八天にはこれまでの階層次元とは異なり、ある種の特別な思いがあった。


自分がルオ・ノタルに転移させられる前に生きていた階層次元でもあり、自分を人間として創造したガイア神がいる。


転移前の記憶をすべて失っているため実感はないが、俺の故郷はここにあるはずなのだ。



目の前に立ちふさがる次元壁と封神結界を打ち破り、いよいよ第八天に足を踏み入れた。


長かった。

あの人気ひとけのない夜の森にいきなり放り出されてからもう五十年近くが経ってしまった。


上位の次元に行くほどに時の流れが速いのだというから、もし自分に家族がいたとしてももう生きてはいないだろう。


それでもようやく帰って来たんだ。

自分が生まれ育った宇宙に。


クロードの心の中に熱いものがこみあげて来ていた。

もし人間の肉体であったなら涙があふれて抑えることなどできなかっただろう。




第八天は輝く星々がちりばめられた美しい宇宙だった。


だが、どこかおかしい。

静かすぎる。

感じられる≪神力≫の数もたった一つしかないし、第七天での異変を考えてもこの静けさは不気味すぎる。


クロードはもう一度気を引き締め直して、感じ取れるただ一つの≪神力≫の在処ありかに向かって行った。

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