第414話 第一天と第二天の境

「そ、それならわたしも一緒に行くよ。足手まといにはならない」


そう言ってきかなかったエナ・キドゥを説得し、クロードは一人、第一天と第二天の境がある辺りに向かった。


先ほどマザ・クィナスの配下の一人が往来を阻まれ、謎の攻撃を受けた場所だ。


クロードは注意深くその場にある≪神力≫を探ると、網の目のように張り巡らされた長大な結界のようなものがあることに気が付いた。


それは感知が為されないように巧妙に隠蔽されてはいるが、紛れもなく何者かの≪御業≫であった。


これほどの広範囲に≪神力≫による結界を展開できる存在がいることに驚きながらも、この結界の欠点について気が付くことができた。


それは巨大な結界であるがゆえの欠点。


膨大な≪神力≫を費やしている割には、薄っぺらく脆弱そうに見えた。

それゆえの網状であり、強度が劣る分、触れた者に強力な攻撃が加えられる仕様になっているのではあろう。


クロードは雷神の属性を持つ≪神様態しんようたい≫にその身を変じ、結界を一気に引きちぎろうと試みた。


触れた瞬間、その結界の形質が変化し、透明な水のように見えるものに変化した。

そして、雷の属性をもつクロードに触手のようなものを伸ばしてきた。


クロードは超反応とも言うべき素早さで、結界からその手をはなすとその場を離れ、危機を脱した。


そしてこの結界の恐ろしさの本質を身をもって知ることになった。


触れた部分の雷の属性を帯びた≪神力≫が散らされ、綻んでいた。


どうやらこの結界は、侵入を試みようとする神の属性に応じてその性質を変え、その最も効果的な方法で攻撃を阻んでくるのだ。


そうであれば≪神力≫に属性を宿す意味がない。


クロードは全身を構成する≪神力≫の属性をフラットな状態にし、かつて一度侵入に失敗した時同様の自然な状態に戻した。


この状態のクロードは≪御業≫を用いることはできないが、その代わり本来の自らの≪神力≫の有様だからか、その持てる全ての≪神力≫を余すことなく操作できるような一体感がある。


なんというか言葉にするのは難しいのだが、力が馴染むのだ。


もはや、痛みや多少のダメージはやむを得ない。


≪神力≫の総量を人型のその身に凝縮し、クロードは境界の結界に突入した。


今度はやはり、初接触時と同様の雷撃がクロードを穿った。


「く……」


クロードは≪神力≫の統制に意識を集中させ、その痛みと衝撃に耐えた。

結界を引きちぎり、さらにその先の目に見えない壁のようなものを渾身の拳で殴りつけた。


これが次元壁というやつか?


クロードのその存在全てを込めたような拳が、その見えない壁を打ち破ったような感触があり、その生じた割れ目に両手の指を差し入れると一気に押し広げることができた。


「やれやれ、突入するだけで二十分の一ほどの≪神力≫を持っていかれてしまったな」


クロードは拓けたらしいその先に侵入し、周囲の様子を確かめた。


そこは先ほどと何も変わらない宇宙空間の続きであったが、何か周りを取り囲む雰囲気のようなものが異なっていた。


異界に足を踏み入れてしまった様なとしか言いようのない違和感。

それがあった。


『緊急事態。神造次元壁、封神結界の一部損傷。そして、第十層管轄特別監察対象者01ディフォンの第二天への侵入を確認。至急、上位次元階層にも伝達すべし。さらに対象を監察対象者から除外。総員、以後は、最重要危険因子として、対象の排除に当たれ!』


第二天中に響き渡るような強力な≪念波≫がクロードのもとにも届いた。

今までのように事務的で無機質な感じはない。

広大な範囲に急ぎ伝えるのが主目的だとわかる余裕のない伝達手段だった。



そして気が付くと頭上の景色すべてがおびただしい数の白く光る翼人たちに囲まれていた。

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