第413話 クロードのやるべきこと
そうだ。
妙な感傷に浸っている場合ではない。
クロードは足下のルオ・ノタルの世界に目を向けた。
青を基調とした美しい惑星を取り巻く天体の運行が正常に戻っており、一見すると大きな異常は見られなかったが、妙な事に気が付いてしまった。
ルオ・ノタル内に感じる≪神力≫の塊が三つあったのだ。
牧神パーヌリウスの消滅と共に神獣たちも消え去ったはずだが、エナ・キドゥ以外の後のもう二つの≪神力≫は誰だ?
≪天空視≫の御業を使い、その二つの謎の≪神力≫のある辺りを探ってみるとその正体に愕然とした。
オルタとヴェーレスだった。
二人はアウラディア帝国内の離れた場所にいて被害が酷かった地域の避難、支援の陣頭指揮をしていた。
まるで、≪肉獄封縛≫を受けていた時の自分のように体の一部が人の身体ではなく、≪神力≫によるものに変わっていた。
あくまでも肉体の遺伝子情報である≪異界渡り≫の力以外にも、まさか≪神力≫まで子供たちに受け継がれるなどということがあるのだろうか。
しかし、事実として二人は神としての片鱗を
秘密めいたところのあるうちの双子たちのことだ。
まだ明かされていない事情の一つ二つは出て来るかもしれない。
そして何より安心したのは、シルヴィアの無事だ。
イシュリーン城は半壊していたが、城の主な顔ぶれは無事のようだった。
こうして世界全体を見ると、牧神パーヌリウスの撃破が迅速であったことと、バル・タザルやエルヴィーラなど地上の実力者たちが頑張ってくれたであろうこともあって被害は最小限で済んだようだった。
オルタによる各種の防災事業も功を奏したようだ。
俺と神々の戦いの余波で天変地異が起こり、地形が変わってしまうほどの被害を受けていた地域もあったが、避難施設に身を寄せる人々の姿を確認できた。
今すぐルオ・ノタルに戻り、互いの無事を喜び合いたいところだったが、クロードはそれを思いとどまった。
自分にはまだやらなければならないことがある。
そして時間がない。
≪御業≫
創世神業 - 世界創世、世界無帰
火神業 - 発火、火炎操作、物質創造、神火、火炎吸収
石神業 - 岩石操作、岩石創造、部分鉱石化
天空神業 - 発光、光操作、天候操作、神雷、飛翔、物質創造、姿形変化、天空視
音楽神業‐絶対音感、楽器把握、音波操作、演奏神技
水神業‐真水創造、水質浄化、液体化、水流撃
鍛冶神‐鍛冶神技
風神業‐風操作、真空刃、風体身、竜巻
地神業‐土壌創造、地震操作、大地一体化
獣神業‐獣化、獣神化、獣操作
戦神業‐戦刃創製、武器特性理解、戦場鼓舞
知識神業‐封印術、超速読破、書物理解
星月神業‐惑星操作、暗夜帳
影神業‐影使役、影一体化、影縛
雷神業‐雷操作、電気操作、発電
騎神業‐防御神具創製、甲冑化、騎乗神技
牧神業‐神獣分身、神獣操作
爆殺神業‐爆破操作、爆破物質化、爆弾創製、多重爆撃
宇宙神業‐天体操作、太陽風、隕石操作、宇宙創造
クロードは自分の身の内に意識を集中させ、神として得られた力の内、できることできないことを整理してみた。
何せ多くの神々を取り込み、その神々の特性も重なり合った部分があるため、実際にはもっと多くの御業やできることがあると思う。
≪鑑定眼≫によるスキル把握と異なり、自分の実感としての把握なので不確かだが、これからやろうとしていることを実行するには、その持てる力の全てを使いこなす必要があるかもしれない。
「ディフォン、こっちも片付いたみたいだね」
エナ・キドゥがやって来た。
再び、裸身の女神然とした人型に戻っており、やや表情に硬さがあったもののその声には明るさがあった。
「すまない。マザ・クィナスたちは全員滅ぼしてしまった。彼の神とは同勢力神だったんだろ?」
「まあ、そうだけど、こっちも殺されかかったしね。気にするのはやめることにした。パーヌリウスの神獣たちが突如苦しみだして、ぐちゃぐちゃに溶け始めたから、ディフォンが勝ったんだとは思ったけど、やっぱりすごいね。もう≪神力≫が大きすぎて、わたしなんかじゃ、対等に口を利けるレベルじゃなくなっちゃった。それにあの双子ちゃんたち、本当にすごかったよ。まさか≪神力≫まで宿しているなんてね。どんな方法を使っていたのかわからないけど、完全に≪神力≫を人間の体の内に封じていたから、今の今まで全く気が付かなかったよ。特にヴェーレスなんか腕から蛇を生やしちゃって、てっきり私に所縁がある神かと思っちゃたよ」
「エナ、うちの双子たちについては俺も驚かされたんだが、そのことを語り合っている時間はないんだ。俺はもう、行かなければ……」
「行く? どこへ? 」
「第二天。そして、はるかその先へ」
「ちょっと待ってよ。第二天への出入口はわたしたちには開かないよ。わたしはすっかり反逆者だし、マザ・クィナスたちだってもういない」
「どうやらこの第一天は完全に封鎖されてしまったらしい。マザ・クィナスたちも第二天への帰還は認められなかったようだ。閉じ込められ、絶望した顔で最後まで逃げ惑っていたよ」
「そうであれば尚のことだよ。妙な考えを起こさないで、この第一天で一緒に楽しく暮らそう。ほら、わたしたち結構気が合いそうじゃない?シルヴィアだっけ? 彼女が正妻で、わたしは二号さんでもいいからさ」
「エナ、真面目な話だ。上位次元神たちはこの第一天を完全封鎖して、この後も俺たちを放っておいてくれるかな? 第一天を無かったことにして、十二番目の階層次元への道を切り開くとかいう崇高な使命とやらを放棄して」
「それは……」
「エナ、以前教えてくれたな。各階層次元においては時の流れの速さが違うと。であれば、余計に時間が惜しい。戻って家族の顔をじっくりと眺めたいところだが、この階層次元での数時間が、上位次元に行くほどに何倍もの時間的猶予を与えてしまうことになるんだろう? 連中はマザ・クィナスたちが失敗すると思っていなかった可能性もあるし、どちらにせよこの事態に危惧を感じ、慌てふためいているに違いない。第一天を封鎖したのは、次に打つ手を考えるまでの時間稼ぎだ。次はどんな手を使ってくるかわからないし、次元震が起きるリスク覚悟で大軍勢を差し向け、第一天の状態を一度無にしようとすることだって考えられる。奴らが態勢を整える前にこちらから打って出て、マザ・クィナスたちをこの第一天に向かわせた黒幕と直接話をつけてくるしか方法はないと思うんだ」
クロードは厳しい表情のまま、一見すると境など無いように見える宇宙空間の先を睨んでいた。
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