第408話 エナ・キドゥの涙
エナ・キドゥに教わるまま、≪神力≫で手当てを試みた。
エナ・キドゥの≪神核≫を覆う幾層もの≪神力≫でできた隔壁の綻びを、クロードの≪神力≫で繕い、その中を満たす。
己の≪神力≫の波長と属性を、エナ・キドゥの≪神力≫に近づけるように変化させ切り離した後、最終的な調整はエナ・キドゥに託す形だ。
それは人間で言えば血を分け与えるような行為であり、自分の存在自体を構成している≪神力≫がエナ・キドゥの中に入っていき、そのまま彼女の一部になってしまうことを考えると何とも不思議な感じがしたが、今はそんな悠長なことを考えている場合ではない。
強がっていたが、エナ・キドゥの状態はあまり良くなく、≪神核≫にまで損傷が及ぶ寸前だった。
「ディフォン、ありがとう。もう十分だ」
エナ・キドゥの表情に活力が戻る。
クロード以外の神は、他者からの≪神力≫を譲渡されてもその器以上の量を留めておくことはできない。
その器は、己が信者の祈りや信仰により、彼らの思い描く神の偉大さが大きくなるほどに拡大し、強固なものになっていくそうだが、それ以外の方法によっては、神は成長できないらしい。
人間がいくら輸血を受けても、輸血前より強くなることが無いように、原状回復がせいぜいのようだ。
「エナ、それでは聞かせてくれ。俺の知らない上の次元で、何があった?」
「ええと、何から話したらいいか。前にわたしが警告したことを覚えている?」
「ああ、上位次元神たちが俺を良く思っていないという、あれだろ」
「そう。君は気が付いていないかもしれないけど、あの後も≪漂流神≫たちを取り込み続けた結果、ディフォンの力は今や、この最下層次元が許容しうる最大神力量のおよそ半分に迫る大きさになってしまっているんだ。このことが意味することが分かる?」
エナ・キドゥの問いに、クロードは首を振った。
階層次元に最大神力量なるものが存在することも知らなかったし、その許容量を超えた場合どうなるかも想像の域を越えていた。
「≪大神界≫が十一の階層次元に分かれているのは前に説明したよね。そのそれぞれの階層には上に行くほどに上位の次元神の方々がいらっしゃるんだ。なぜそのような配置になっているのかというと、≪大神界≫は上位階層は上に行くほど広く大きく、下に行くにしたがって先細っていくすり鉢状のような形状をしていると考えてほしい。その空間に比して、
「ちょっと待て。上位次元神たちはそのことを知って尚、軍勢を差し向けてきたというのか?」
「上位次元神たちも次元震によるカタストロフィを恐れている。自分たちが信仰を得るために手塩にかけて育て上げた≪世界≫を失いたくはないからね。だからこそ、今、このタイミングでの行動に出たんだ。もし、君の≪神力≫が第一天の許容量の大半を占めてしまったら、もう君を越える≪神力量≫の軍勢を送り込めなくなってしまうからね」
「わからないな。軍勢である必要がどこにある。もし、俺を殺したいなら、俺を上回る神を一人差し向ければそれで済む話だろ」
「それが出来たら、もうとっくにしてるよ。ディフォンに単独で勝てる神なんて、もうそれほどはいないんだ。ディフォンを危険視している神は多いけど、実際に行動を起こそうという神は少ない。≪唯一無二の主≫の
その二人は知っている。
というより、このエナ・キドゥを除けば会ったことがある上位次元神はその二人しかいない。
あのパーヌリウスとかいう無愛想な奴が自分を快く思っていないのは態度から伝わってきたが、あのマザ・クィナスまで加わっているのは意外な感じだった。
どちらかというとエナ・キドゥが言う日和見する部類かと思っていた。
「ディフォンの管理について全権を任されていたマザ・クィナスは、さらに上位の次元神たちから追及されて立場がない。失点を取り返そうと躍起なんだ。第五天への昇神が決まりかけていただけに不憫なところもあるよ。実はマザ・クィナスとは、年代は大きく隔たっているけど、片方の
エナ・キドゥの表情が曇った。
「エナ、どうしてこんな危険を冒した? そういう間柄であれば俺に報せに来たりするべきじゃないんじゃないか」
エナ・キドゥから哀しみの波長が伝わって来た。
涙がその愛嬌のある大きな瞳にたまり、そしてこぼれた。
「……わからないよ。自分でもわからない。でも、マザ・クィナスから軍勢に加わる様に言われた時、なぜかディフォンに知らせなきゃって思ったんだ。戦いが始まったらきっと君のいるルオ・ノタルの世界だってただでは済まない。そうなったら、あのオルタやヴェーレスだって……」
「エナ、うちの双子がどうしたっていうんだ。お前には……」
「あの双子には何か、
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