第405話 蚊帳の外

シルヴィアの待つオーリボーの自宅に戻ってからも、あのオルタの涙の懺悔ざんげが頭から離れなかった。


オルタは一体何に対して脅威を感じている?


この先、一体何が起こるというのだろう。


クロードはこの後、独自にではあるが、≪箱舟≫のエルヴィーラや≪這い寄る根≫の首領ザスキアの元を訪れ、各地で何か異変のようなものはないか尋ねてみたり、≪天空視≫を用いてこのルオ・ノタルの地の隅々を調べたりした。


だが驚異の予兆らしきものは何も見つけることができなかったし、世界は日常の平穏のままであるようにしか思えなかった。


もちろん、オルタが統一した大陸の外の、文明レベルが数段遅れている地域では、人間同士によるその地域内のいざこざや集団の長を巡る戦いなどが行われていたりはした。


だが、それがルオ・ノタル全体の存続を危うくするようなものであるとは到底思えなかったし、≪恩寵≫が無くなった今、それはもはやその土地や国内限定の規模の話に納まるものであった。


異能や超人的な力を持つ者はもはやその数を大きく減らしていて、戦のやり方も組織された軍同士による集団戦闘が主流となっている。


オルタがとったような個が集団を圧倒するようなやり方はもはや見られなくなってきており、災いを引き起こしかねないような超人的人物は大陸外ではとくに見つけられなかった。


クロードの退位と共に宮廷魔道士の職を辞し、白魔道教団の教主の座に戻ったバル・タザルにも相談してみたが、何のことやらと首をひねっていた。



やはり、オルタたちの杞憂に過ぎないのではないか。


そうクロードが結論付けたのとは対照的に、オルタの見えざる脅威への対策に思える数々の施策が、アウラディア帝国内で次々と始まっていった。


各地に巨大な地下施設が創られ、科学者ゲイツ考案の保存食料や水などの備蓄が始まったのだ。


人々はこれらの政策が何の意味を持つのかいぶかしみ、不満を持つ者もいなくは無かったが、予算は全て国庫からの物であるし、カリスマ的な人気があるオルタ帝の勅命とあっては従わざるを得なかったようである。


まるで長期にわたる避難生活に備えでもするかのようなこれらの事業と並行して進められたのが、軍の組織化とその訓練である。


これまで各州知事の私兵的だった各地の兵力を帝国軍として編成し直し、その軍事費をアウラディア帝国が一手に担うことになった。


こうした大規模事業と軍制改革は国家の財政を傾けるものであっただろうが、宰相のエーレンフリートはじめ、重臣たちからは異論は出なかったようだ。


これはオルタ帝に対する絶対的信頼の他に、宮廷魔道士のヴェーレスの予知があったことに起因するらしい。


ここ数年のうちに未曽有の天変地異が起きる。


この予知は一部の重臣たちにのみ知らされ、他の者には伏せられていたが、クロードはそのことを親友でもあるエーレンフリートから聞くことができた。


だが、ヴェーレスからは父に心配をかけたくないので伏せておくようにと釘を刺されていたらしく、話してしまって良かったものかとエーレンフリートは少し後悔している様子だった。


オルタ同様に、ヴェーレスには幼少期より不思議な力があって、少し先の未来を言い当てたりすることがあったが、これは自らの力でコントロールは出来ない力であったようだった。


不意に何者かの言葉を聞くことで先の未来を知るので、その事柄以外のことはわからないが、ヴェーレスが予知により伝えたことは必ずそうなったので、彼女の力を知るものはその内容を疑問視することは無くなっていった。


ヴェーレスの予知の力はアウラディア帝国の宮廷内では皆知るところとなっており、この予知が重臣たちにもたらされたことも、このオルタ帝の大規模防災事業推進を後押しする原動力になったそうである。



この話を聞いたクロードではあったが、疑問は解消することなく、むしろさらにオルタたちの言う脅威に対する謎が深まってしまったことを感じた。


未曽有の天変地異というが、このルオ・ノタルの世界内の規模の話であれば、クロードの≪神力≫やそれを用いた≪御業≫で解決が可能だ。


そうであるにもかかわらず、こうして自分だけが詳細を知らされず、蚊帳の外に置かれている意味がわからなかった。


俺に知られてはいけない理由。


それは一体、何なのであろうか。

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