第399話 幸せの真っただ中

通常とは異なる生まれ方をした双子たちであったが、その後は順調に育っているように見えた。


親バカに思われるかもしれないが、同じ年ごろの子供たちと比べると、とても賢く大人びているので、泣きわめいて親を困らせたり、問題を起こしたりということはほとんどなかった。


正直なところ、もっと手がかかってもいいにと思うほどで、周囲の者たちから子育ての大変さをこれでもかと聞かされていたので、拍子抜けであった。


母親に似たのだと思うが、言葉の習熟も早く、二歳になる頃には大人と日常の会話をするのに支障がないほどの語彙を身につけ、周囲の者たちを大いに驚かせたし、身体能力も同じ歳の子供と比べると格段に高かった。


六歳時には城中の書物をほとんど読破してしまい、教育係を務め得る者を探すのに苦慮するほどであった。


双子の知的好奇心は高く、この世の仕組みのありとあらゆることを学ぼうとし、母親のシルヴィアでさえも答えられない質問も増えてきたので、悩んだ挙句、師のバル・タザルに双子を師事させることにした。



そして、子供の成長は速いもので、この頃から双子でいつも一緒だったオルタとヴェーレスも次第に互いの個性を出すようになってきた。


オルタは男の子らしく武芸に興味があるようで、クロードが政務の合間の気晴らしに行うオロフやドゥーラたちとの実戦訓練を見学したり、彼らに手ほどきを受けたりするようになった。


一方のヴェーレスは、魔道や魔力の仕組みに関心を示しており、その他にもゲイツの知る科学的な知識にも興味があるようだった。


この年頃の子供と言えば遊ぶことに夢中で、同じ年代の子供たちと追いかけっこをしたり、ままごと遊びをしたりして遊ぶものだと思っていたのだが、この双子たちは何から何まで全てが違っていた。


そういう本来、子供らしいとされている諸事に関心があまり無いようであったのだ。



このようにおおよそ普通の子供らしいとは言えないオルタとヴェーレスであったのだが、手がかからないというだけで決して愛らしさがなかったというわけではない。


クロードにもよく懐いていたし、見た目はその年の頃のかわいらしい少年少女であったのだ。

周囲の者たちに神童とほめそやされても調子に乗ることもなく、とても礼儀正しかった。


非の打ち所がないのが欠点と言えば欠点であるがそれに文句を言っては世の親たちに恨まれることになるだろう。



聡明で美しい妻と出来過ぎとも言える愛しい双子たち。

そして王族としては質素だが、何不自由ない豊かな暮らし。

クロードの築いた家庭生活は誰もが羨むものであった。


公人としての活動も順調で、国は富み、周辺国の動揺も収まりつつある。


これ以上望むものはない。


異世界から転移させられ、それ以前の思い出の全てを失ってしまうという何とも奇妙な身の上であったはずが、紆余曲折を経て、人並み以上の幸せを得られたのだ。


この異世界で新たに生まれた家族の絆が、失われた記憶の空虚を癒し、そして自分が存在することの意義を与えてくれた。


まさに今、幸せの真っただ中にいると、クロードはこの時、思っていた。


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