第398話 本当のこと

「知っているかもしれないが、この≪神喰≫の力は俺の意志に関わらず、≪神核≫を失った神の≪神力≫を吸収してしまう。この世界を守るためには、やって来る異邦神たちを倒さなければならないし、俺にはどうしようもないことだ。違うか?」


「う~ん、そうなんだよね。漂流神たちも消滅を免れるために必死だし、自我を失っていることもある。毎度、話し合いで帰ってもらうってわけにもいかないよね」


第三天の神エナ・キドゥは腕組みし、顎に手を当てて真剣に悩んでいるような素振りをした。


「大体にして、何だって高次元の神々はそんなにも俺を気にするんだ?。こんな最下層次元のことに関心をもってないで、他にやることがあるだろう。上位次元神っていうのはそんなにも暇なのか?」


クロードの問いかけにエナ・キドゥは少し困ったような顔をした。


「……きっと、怖いんだよ。ディフォンのことが」


「怖い? 何故だ。俺よりも大きな力を持ち、高みから見下ろす立場の神々がなぜ俺を恐れる必要がある」


「ディフォン、君は気が付いていないようだから教えてあげるけど、初めてわたしと会った時、すでに第三天の神であるわたしやパーヌリウスと同格の≪神力≫を持っていたんだよ。それが今や第四天の神々の首座にあるマザ・クィナス様をも優に上回る≪神力≫を有しているんだよ。これほどの短期間に、これだけの力を増した神なんて例がない。しかもディフォンは、第二天への昇格の権利を放棄して、最下層次元である第一天に留まってるでしょ。これが他の神々にしたら、理解できないことだし、不気味であることこの上ないわけよ。理解できないものを恐ろしく思うのは人も神も同じ」


「俺がしていることはそんなにも神々にとっておかしなことなのか」


「本当の意味での神から生まれた神は、わたしもそうだったけど、自分を産んでくれた神や≪唯一無二のしゅ≫に少しでも近づきたいという根源的な欲求を抱えているわ。第一天に残って新たな次元階層を開くための挑戦をするなんて正気の沙汰ではない。マザ・クィナス様に口止めされていたけど、もし新たな次元階層を開くのに失敗したら、どうなると思う? 消滅してしまうのよ。次元の底を打ち破るために放った力の奔流が、次元壁に蓄えられ、その力が倍加された状態で跳ね返ってくるの。これまで数多の神が試み、そして失敗した。次元壁はまるで意思があるかのように新たな次元階層を開こうとする者を拒み続けているわ。これまで十度打ち破ってきた次元の底とは何もかもが違うのよ。それゆえに、この第一天が本当の底で、≪唯一無二のしゅ≫の言う十二番目の階層次元なんて実は無いんじゃないかって、ほとんどの神は考えるようになった」


なるほど、第二天の神に昇格するか、第一天に留まり新たな次元階層を開くための挑戦を続けるか聞かれた時に、後者を選んだ俺へのマザ・クィナスの反応が微妙だった理由がはっきりした。


そして、失敗時にどうなるかを伏せた理由も。


見た目は聖職者のように穏やかで人の良い印象であったが、中身はかなり食わせ者であるようだ。


「エナ・キドゥ、なぜ俺に本当のことを教える気になった? このことが知られたらお前もまずいことになるんじゃないのか」


クロードの問いに、エナ・キドゥはすぐに答えることはしなかった。

その代わりに、今、イシュリーン城の中庭で駆けまわり遊ぶ双子を指差した。


「うん? オルタとヴェーレスがどうかしたのか」


「初めて見た時からあの双子のことがやけに気にかかる。わたしは神産みの儀式をしたことがない処女神だから何とも言えないのだけれど、何かとても近い身内のような親しみを感じるんだよね。そのせいかな、君が守ろうとしているこの≪世界≫も君のこともなんだか他人事だと思えなくなっちゃったんだよね」


エナ・キドゥはいたずらっ子のように舌を少し出して見せると、照れくさくなったのか自らの階層次元である第三天に帰っていった。



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