第397話 エナ・キドゥの警告
二つの王国の国王として励み、さらに別の国の議員としての務めを果たす。
常人であれば到底続けられないような多忙の日々であったが、その人間としての実り多い日々をクロードは心から幸せだと思っていた。
出産を終えたシルヴィアはイシュリーン城の
シルヴィアの希望としては、どこか田舎に一軒家を見つけ、そこで静かに双子の養育に専念したかったようであるが、家族と少しでも一緒に過ごしたいというクロードのわがままを聞いてくれる形となった。
もっともあの婚礼の儀のお披露目で王妃として大衆に知られてしまった手前、市井に暮らすというのは、警備上の観点などからも難しかったかもしれない。
こうしてイシュリーン城で家族と共に暮らせるようになり、クロードの公私の生活はとても充実したものとなった。
双子の良き父親になれるように悪戦苦闘の日々であったが、傍らにはいつも聡明で優しいシルヴィアがいてくれたので、笑いのたえない家庭生活となった。
この異世界にやって来る前の思い出の全てを失ったこともあって、日々積み重なっていく新たな思い出が得難い宝物のようにクロードには感じられていた。
その宝物のひとつひとつを集めていくことで失われた二十余年の空白を埋めることができるのではないか。
記憶の空白は、時折ではあるが虚無感にも似た
忙しくしている時は忘れているが、子供たちの面倒を見ている時などに、不意に自分がどのように育ったかなど思い出そうとすると何とも言えないような気持になる。
もし、記憶の空白を新たな思い出で完全に埋められたなら、異世界から漂流してきた者ではなく、この世界に生きるただの人間としての人生が本当の意味で得られるのではないかとクロードは考えた。
だが、そうした人間としての生活の他にある、≪神≫としての活動がどうしても自分が他の人間と違うのだと思い出させてくる。
≪神≫としての活動とはいわゆるこの≪世界≫の防衛に他ならない。
創世神たるルオ・ノタルや≪光の九柱神≫、あるいはあのデミューゴスが担っていたように、この異世界の外から絶えず漂着してくる≪漂流神≫や他の神の所有する世界の横取りを考える≪異邦神≫をクロードが撃退し続けなければならないのだ。
そうして討ち果たした神々の≪神力≫をEXスキル≪神喰≫が意思にかかわらず、その身に取り込んでしまうので、クロードの持つ≪神力≫は年月を経て、そうした異邦神の侵略を受けるごとに増大し続けていった。
「ディフォン、君さあ……最近高位次元の神々の間で随分と評判が悪いようだよ」
そう教えてくれたのは第三天の神エナ・キドゥであった。
エナ・キドゥは俺を≪神≫らしくするための教育係であり、監視役でもあるという話だったが、その職務にはあまり熱心ではないようで、暇に任せてやって来てはこうして世間話をしたり、愚痴を言いに来ていた。
オルタとヴェーレスが生まれた頃から会いに来る頻度が増し、二人があちこち走り回るようになった最近では、ほとんど十日に一回はやって来ている。
双子は三歳になり可愛い盛りだ。
第三天の神とはいえ、きっとこの双子の愛くるしさの虜なのだろう。
彼女が行き来できる階層次元世界には、うちの子より可愛い子はいないに違いないし、気持ちはわかる。
ちなみにディフォンというのは≪唯一無二の主≫とやらが俺に名付けてくれた≪
この名で俺を呼ぶのは今のところ、このエナ・キドゥしかいない。
赤髪に褐色肌の若く美しい女性の姿をしたこの神は、相変わらず目のやり場に困る、ほとんど裸同然の姿で
「そうなのか? まあ、 会ったこともない連中がどんな風に思おうと知ったことではないし、弁解のしようもない。お前、俺にそれを聞かせてどうしようっていうんだ?」
「いやな言い方をするなぁ。わたしは警告してやっているんだぞ。もともと上位次元神の方々の多くは、君のことを快く思っていない。≪神産み≫によらない異端の方法で作られた神だとして危険視されてるんだ」
「危険視? なんでだ?」
「君のその、≪神喰≫の力だよ。自らの管理する世界の住人から信仰を集めなくても、≪
「そうなのか。その上位次元神たちの中には同じような力を持った奴はいないのか?」
「いないよ。そもそもそういうことができるなんて誰も想像だにしなかったんだ。そう、君の造り主であるガイア神でさえもね」
それはおかしな話だ。
娘であるルオ・ノタルが創り出した≪
≪神喰≫の元になった≪亜神同化≫のスキルを記憶と引き換えに与えたガイア神が知らないなどということがあるだろうか。
≪亜神同化≫が得られたのは確か……、そう魔将ザームエルとの戦いで意識を失ったその無意識下の≪恩寵≫発生時だった。
利用されていた≪
誰かがガイア神の目をかいくぐり、その≪
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