第396話 魔境域の内外

クロードが生まれたての双子を抱くことができたのは出産後の沐浴を済ませた後であった。


清潔な布にくるまれ、薄目を開けてこちらを見ているその小さくも温かい存在をその腕に抱かせてもらった瞬間、訳も分からず涙が込み上げてくるのをクロードは感じた。


「こっちは……その……、男の子の方かな?」


「はい、その子はオルタ。私の隣にいるのがヴェーレスよ」


クロードとシルヴィアは生まれてくる双子が男女一人ずつであることを、≪透視≫により事前に知っていたので、その子らの名前を話し合って決めていた。


クロードとしては子供たちに付ける名前にこだわりはなかったので、結果としてシルヴィアの希望通りになったのだが、彼女によれば、お腹の子たちが夢の中で自らそう名乗ったのだという。


クロードはオルタをシルヴィアの傍らに戻し、代わりに今度はヴェーレスを抱き上げた。


こうして見比べると、双子ということだが、あまり似ていない。


オルタはクロードと同じ黒髪黒目であったが、ヴェーレスはシルヴィアの身体的特徴を強く受け継いだのか銀がかった白に近い髪色で、瞳も暗い銀色であった。


もっともどちらも生まれたてで、子ザルを思わせる感じであったから、顔立ちを見てどちらに似ているのかなどとは今の時点では判断しようがない状況ではあった。


何はともあれ、どちらの子も等しく愛しい。


受肉した≪神≫と超人的な力を身につけた魔道士の間に生まれた子であったので、こうして実際に生まれて来るまでは、何か人と違う障害などを持って生まれて来るのではないかという懸念もないわけではなかったのだが、出産に立ち会ってくれた魔道士たちの話では特に異常は見られないという話だった。


五体満足で生まれてきてくれた双子と初産を乗り越えてくれたシルヴィアにクロードは順にキスをし、城に戻った。



城に戻ったクロードは、エーレンフリートをはじめとする家臣たちに無事、双子が生まれたことを報告し、王としての執務に戻った。


クロードが初めて父親となった記念すべきこの年は、ミッドランド連合王国にとっても大いに飛躍することになった一年でもあった。


かつては周辺国にしてみれば謎に包まれた得体のしれない集団であったこの国が、いまやこの大陸の中心国家として認知度を高めつつあり、それと同時に人口の著しい増加をもたらすことになった。


魔境域内において、国家に属することを良く思っていなかった各亜人種の部族たちもそれが時流であると認め、ミッドランド連合王国構成国に続々と参加の意思を表明し始めたのだ。


そればかりではない。


魔境域外から、首都アステリアに移民してくる者たちも増え始めた。


魔物を産み出す≪機械神ゲームマスター≫を全機破壊したことで、魔境域内の魔物の出現率は著しく低下した。

≪恩寵≫が発生しなくなった今、魔物はただの害獣にすぎず、冒険者ギルドなどの駆逐対象にされ、その数は減少の一途を辿っているのだ。


安全で豊かな土地であれば、人族が移住を躊躇う理由はない。

旧クローデン王国領や神聖ロサリア教国、はたまた南のアヴァロニア帝国からさえ、安住の地を求める人々がやって来ては移住を決めた。


こうして徐々にではあるが、魔境域の内外という区別は不要になっていったのである。

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