第395話 運命の双子
シルヴィアが双子を宿しているとわかってから、二年が過ぎた。
それは誰の目にも明らかに異常な妊娠期間であったが、バル・タザルの話では胎児の状態には異状なく、健康そのものであるという。
この頃になるとシルヴィアのお腹も随分と大きくなり、出産も間近ではないかと期待させられる状態であったが、
出産時期も見当がつきづらく、目が離せない。
当のシルヴィアはというと、不思議と落ち着いていて、こんなことを言っていた。
「この子たちはとても賢くて優しいのよ。お腹の中から私に語りかけてくるの。私の身体を
シルヴィアはどちらかというと現実的なものの考え方をする性格なので、いい加減なことを言っているとは思えなかった。
だが、胎児が母親に語りかけてくるなどありえないことであるし、この長期にわたる妊娠といった異常状態で精神的に追い詰められているのではないかとクロードを含めた周囲の人々はとても心配した。
アウラディア歴七年、春迎月の十四日。
シルヴィアの「もうすぐ」という発言から三日後のことだった。
シルヴィアが急に産気づき、陣痛が始まった。
出産は白魔道教団の老師の一人にあたる女性魔道士が担当し、その助手や身の回りの世話をする人間も全て教団の者たちが担ってくれた。
究極の人間になることを目標とし、長きにわたって人体の仕組みについても研究を積み重ねている白魔道教団の魔道士は、この世界では最高の医術体得者であり、近隣の村々でお産を手助けすることもあったため、子供を取り上げた経験を有する者も少なくはない。
まさに出産に関しては考えうる最高の環境であったわけだが、その白魔道士たちでさえ首をひねる例のない妊娠期間であったため、現場には異様な緊張感が漂っていた。
ナヴァルバ山麓の修練場にある大道場の
広い大道場内を落ち着きなく右往左往するクロードに、バル・タザルは落ち着くように声をかけてきたが、それも頭に入らぬほどに心配でたまらなかった。
双子ということもあり、切開の必要があるかもしれないと説明を受けており、そのことが余計に不安を助長させてくる。
無事に双子が生まれてきてくれるのか。
シルヴィアの体は大丈夫か。
常人ではない自分の血を引く子らがちゃんと普通の赤ちゃんとして生まれてきてくれるかなど、心配事が次々浮かんできて、じっとしてはいられなかった。
シルヴィア達がいる部屋の外で待つこと数時間。
初産ということで長くなると説明を受けていたが、この時間が長いのか短いのかはわからない。
ちょうど太陽が真上に到達した頃、大きな産声が聞こえ、しばらく後にもう一人も聞こえた。
「クロード様、お喜びください。元気な双子の赤ちゃんです。一人目はクロード様に似て黒髪の元気な男の子。もう一人は愛らしい顔立ちの女の子ですよ」
顔に白い布覆いをした女性魔道士が扉を開けて、知らせてくれた。
彼女も目に涙を浮かべ、感極まった様子で涙声になりかかっていた。
「シルヴィアは、彼女は無事ですか?」
「はい、運が良いことに二人とも下向きの頭位だったので切開の必要がなく、母子ともに予後は良好と言っていいと思いますよ」
不安げなクロードを宥めるように女性魔道士は笑顔で応えてくれた。
クロードは一目だけでも会わせてほしいと頼んでみたが、それは赤子に良くないと断られてしまったので、大人しく引き下がった。
すぐにでもシルヴィアと双子に会いたい気持ちでいっぱいだったのだが、今は無事出産が終わったことがわかっただけでも十分だと思うことにした。
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