第392話 二人のこと
「姉はクロード王陛下に好意を抱いているようですし、何も問題はないかと。我ら一族と陛下が縁戚になるということになればこれほど喜ばしいことはありません。父テーオドーアも喜ぶでしょう」
翌日、この
エーレンフリートはとても驚いた様子だったが、話を聞くにつれ次第に我が事のように喜んでくれた。
オイゲン老亡き後、その重責を代わりに受け継ぎ、共に建国の諸事に苦心してきた間柄である。
君臣の関係であると同時に、深い友情のようなものが両者には育ちつつあったのだ。
エーレンフリートは、やはりシルヴィアのことを正式に伴侶として公表すべきだと力説し、そのための段取りや準備などの一切は任せてほしいと胸を叩いた。
まさしく我が意を得たりという感じで、エーレンフリートの存在をとても心強く感じた。
シルヴィアのことをいつまでも周囲に隠しておくのは心苦しかったし、生まれてくる子供たちも親しい者たちに祝福される環境で育てたかった。
クロードはその場を去った後も、エーレンフリートに相談したことは間違いではなかったと内心、彼に深く感謝した。
姉のユーリアのことは申し訳なかったが、そうした私情を捨て親身に相談に乗ってくれたことが何よりうれしかった。
心の中のもやもやが幾分晴れた心地がしたが、もう一つ解決しなければならない問題がある。
シルヴィア本人の説得だ。
シルヴィアは、孤児として育ち、魔道士として生きてきたその経歴から、国王であるクロードの配偶者としては相応しくないと考えていて、公表することには反対であるようだった。
生まれてきた子もイシュリーン城ではなく、静かな環境で育てたいと言っていたし、考えを変えさせるのは困難であるように思われた。
無理強いはしたくない。
だが、愛する人はシルヴィアただ一人であることを周囲に伝えたい。
人目を忍んで会うのではなく、日の当たる場所を腕を組んで歩きたい。
クロードは葛藤した。
正午過ぎの穏やかな首都アステリアの街並みを眺めながら通りを歩くと、子供連れの夫婦や駆けまわる子供らの姿が目に入って来て、思わず自分たちの未来を重ねてみてしまう。
大通りに出ると人の往来は増え、路上で商いする人の姿も多く見受けられた。
民の表情は明るく、活気に満ちている。
様々な種族が入り混じったこの都において、これだけの治安と賑わいをもたらすには様々な苦労があった。
相次ぐ侵攻を乗り越え、種族間の小競り合いを一つ一つ仲裁しながら、調整を取る。
自分一人では成し遂げられなかったこれらの難題を皆で根気よく克服してきたのだ。
クロードは活気にあふれた首都アステリアの光景に勇気を貰えた気がした。
シルヴィアともう一度、これからの二人のことについて話し合ってみよう。
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