第391話 クロードの縁談話

降って湧いたような自身の縁談話であったが、クロードはその場でマルティヌスに結婚の意思はない旨伝えた。


自分としてはいつまでも王位にしがみついている気などないし、ミッドランド連合王国とアウラディア王国は世襲制ではないので世継ぎの必要もない。


もう少し国家として軌道に乗ったなら、シルヴィアと共にこの城を去るつもりでいたのだ。

寝物語に、この世界を旅して歩きたいといつも二人で語り合っていたし、そうするつもりでいた。



そんなクロードの思いとは別に、神聖ロサリア教国からもたらされた縁談を契機に周囲が騒がしくなった。


神聖ロサリア教国が縁談を持ち掛けたという話が各国の大使や間諜の耳に入ったらしく、連日のように縁談が舞い込むようになってしまった。


ミッドランド連合王国の構成国や家臣からもこうした話が持ち上がり、誰がクロードの配偶者の座を射止めるのかという話題で城内は持ちきりだった。



こうした雰囲気の城内に居心地の悪さを感じ、執務室に閉じこもることが多くなったクロードではあったがこの場所すらおびやかされる事態が起ころうとは思ってもみなかった。


「クロード様、一休みされてはいかがですか?」


そう言われて振り返ると専属秘書官のユーリアが立っていた。

温かい飲み物とちょっとした菓子類が載った金属製の装飾がかったトレーを持っていたのだが、問題はその服装だ。


大きく胸元を強調した華やかなドレスに思わず目を奪われた。

闇エルフ族特有の褐色の艶やかな肌に、豊かなふくらみ。


クロードは頭を振り、心の中でシルヴィアに詫びながら、雑念を追い払う。


「お茶を入れてまいりました。向こうで一休みしませんか?」


ユーリアはトレーをサイドテーブルに置くとクロードの手を取り応接セットの方に誘おうとした。


「クロード、いる?」


扉を開け入ってきたのは、リタだった。

最近は城下町の冒険者ギルドの方に入り浸っていたようだったが、急にどういう風の吹き回しだろう。


見ると黒を基調としたほぼシースルーのドレスで、こちらも背中が大きく開いたセクシー仕様だった。

小悪魔的な可愛さをポイントで強調しながらも、全体的には大人っぽくリタによく似合っていた。


「あら、年増の闇エルフもいたのね。クロードにちょっと話があるの。席を外してくれない?」


「あら、年齢は貴方の方が上だと伺ってましたけど。それに冒険者ギルドの方は良いんですか? お忙しそうにしていると伺ってましたが……」


両者が俺を挟んで、火花を散らし始めた。


「二人とも何の用だ?」


クロードがそう問いかけると二人は同時にこっちを向き、腰に両手をあてたまま、抗議するような顔で一斉に捲し立ててきた。


「クロード様、城内ではクロード様の婚姻の話で持ちきりです。いったいどういう風にお考えですか。長くおそばに置いていただけているので、私はてっきりクロード様にとつげるものだと期待しておりましたのに……」


「クロード、わたしのこと嫌い? クロードになら私の全部あげちゃっても良いって思ってたんだけど。ねえ、お嫁さんはわたしにしよう。一生尽くしてあげちゃう」


二人はすごい迫力で距離を詰めてきた。

それぞれ左右の腕を取り、上目遣いに返事を待つ。


「すまない。ちょっと急ぎの用を思い出した。出て来る」


やさしく二人を振りほどくと、クロードは慌てて≪次元回廊≫の入り口を出し、その中に飛び込んだ。





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