第389話 主権国家としての第一歩

日々を忙しくしていたクロードにとって、シルヴィアのお腹の中の双子が無事に生まれてきてくれるかという私的な悩み以外は、総じて順風満帆であったと言っていい。


ブロフォスト共和国は周辺の小貴族の帰順、新たな農地の運営などが軌道に乗り始めこともあって、徐々にその国家としての体裁を整えつつあった。


軍制、税制だけではなく、国内法も整備されたことで治安も回復し、周辺地からの移民により人口は増加の一途をたどった。


共和国議会議長兼執政官ピュクラーと議会議員たちの意欲は高く、ミッドランド連合王国との交易も加速し、これにディーデリヒらの旧クローデン貴族であった地方領主たちが加えてほしいと申し出てきたため、ブロフォストを中心に新たな商業経済圏が形成され始めたのである。



ミッドランド連合王国としても、閉ざされた魔境域に外部の様々な文化や物品が流れ込んでくることで、生活の利便性が増したり、いちが立つ機会が増えるなどの経済的恩恵を受けることになった。


交易などを通じて、人族と魔境域の亜人種たちが交流を持つ機会も増え、商取引に関わる多少のいさかいは起こってしまうものの、全体としては相互の理解につながっているように見える。


魔境域侵攻の際に、森を切り拓いて作られた進軍路は、皮肉にも街道として整備され、ブロフォスト・アステリア間の交易路としての役割を果たしているし、その街道を交易以外の目的で行き来する人も少しずつ増え始めた。


かつては魔境域と恐れ、クローデン王国崩壊のきっかけとなったミッドランド連合王国であったが、ブロフォスト共和国の人々の印象も変わってきたようだった。




この頃になると、もはや国際的にもミッドランド連合王国は無視できない存在になってきたようだった。


軍事強国として名が知られていたクローデン王国や神聖ロサリア教国の侵攻を軍事的に退け、皆が注目する新共和制国家に多額の資金援助を行った上で、庇護下においているなどの事実が知れ渡り、魔境域に興ったというその得体のしれない実態も相まって、想像以上の存在感を周辺国に与えていたようである。


神聖ロサリア教国、フンクール王国といった紛争中の国家から、クロードがその名前すら知らなかった小国家群、さらには南の大国であるアヴァロニア帝国まで競う様に様子伺いの使者を寄こしてきたのである。


一人前の国家として周辺国から認められ、対等の扱いをされるようになることを目標としていたミッドランド連合王国としては、こうした動きは何よりの喜びであったし、これをもって独立した主権国家としての第一歩を踏み出したとみなすことができるかもしれないと家臣たちは一様に喜びを露わにしていた。


使者を送りだしてきた相手方としてみれば、対等に国交を結ぶに足る価値ある存在か品定めの意味もあったのであろう。


クロードは国王として、この各国の使者たちの対応にも追われた。



その使者たちの中によく見知った顔があった。

神聖ロサリア教国の新教皇となったかつての枢機卿、マルティヌスであった。

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