第377話 最後のオペレーション

「E089211AD、教えてくれ。お前がここに俺を呼んだ理由は何だ。精密検査と軌道修正のための修復が必要だというのはどう意味がある?」


クロードは≪機械神ゲームマスター≫に向かって話しかけたが、その答えは機体の口からではなく、施設内に設置されている機器から発せられた。

あくまでも≪機械神ゲームマスター≫と万魔殿パンデモニウムは一体化した施設であるということだろうか。


『≪仮マスター≫クロード、そのオーダーは前権限者ガイアのものです。現時点で検査及び修復は必要ありません』


前権限者ガイアとは意外な名前が出てきたものだ。


おそらくガイアというのは、俺をこの異世界に放り込んだ第八天の神ガイアに他ならないであろう。

この異世界の創造神ルオ・ノタルの父神にして、俺を人間として作った張本人。


これまでのことを整理して見ると、ガイア神は娘であるルオ・ノタルの窮地を知り、それを救うべくデミューゴスの召喚儀式になんらかの細工をして俺を人知れずこの異世界に向かわせたと考えられる。


俺は消滅しかかっていた娘ルオ・ノタルへの言わば救援物資であり、ガイアの≪神力しんりき≫を送り届けるための器にされたのではないか。


それは神々の間のルールに抵触する行為であったため、極秘に行わなければならず、その状況のコントロールと無事に俺がルオ・ノタルのもとにたどり着くための援護に、この起動停止されて放置状態にあった≪機械神ゲームマスター≫が必要だった。


異世界間不等価変換(ガイア→ルオ・ノタル)というスキルによって、この異世界に存在する様々な脅威に抗う力を備えさせ、確実に娘のところに到達させようという魂胆だったのではないか。


スキルの獲得に記憶を要求されるのは、元の世界に戻る動機を俺から奪うためで、ルオ・ノタルへの誘導の一つだったと考えるのは行きすぎか。


元の世界に戻ってこられては困る。

そういうことであったのではないか。


しかし、そうした試みは何らかの事情によりその思惑を超え、結局ルオ・ノタルの消滅に至ったわけだが、第八天というこの異世界のある階層次元からしたら雲の上の存在であるガイア神の介入が失敗に終わったのは何故だろう。


ガイア神が休眠状態の≪機械神ゲームマスター≫を遠隔起動させ、その権限者を自らに書き換え利用していたのはほぼ間違いないとして、その後更に何者かの介入があった可能性が考えられる。


よくよく考えてみれば不自然なことだらけだ。

娘であるルオ・ノタルを救いたいのであれば、なぜガイア神は≪亜神同化≫などというEXスキルを俺に授けた?


あのスキルが無ければそもそも俺は一方的にルオ・ノタルに吸収されるだけであっただろうし、漂流神たちを取り込み、これほどの力を身に着けることも無かった。


そう考えると≪亜神同化≫を授けたのはガイア神ではない別の誰かである可能性が浮上してくる。

その何者かが、まるでコンピュータをハッキングするかのように、ガイア神が利用していた≪機械神ゲームマスター≫を使い、計画を思わぬ方向に狂わせたのだとするとどうだろう。


きっと、「精密検査と軌道修正のための修復」というのは異変に気が付いたガイア神が下したオーダーだ。


俺が結局そのメッセージを無視してしまい、そのオーダーは空振りに終わってしまったのだが、あのとき従っていれば今とはだいぶ異なる状況になっていただろうし、俺はもうすでに存在していないかもしれない。


ここまでは全部、俺の憶測にすぎない。


さて、問題はここからだ。


ルオ・ノタルの消滅によりガイア神にとっては不要になった≪機械神ゲームマスター≫の権限者になりおおせ、これからまだ何かをしようとしているものの正体は何者だ。


機械神ゲームマスター≫に何をさせようとしているのだ?



「E089211AD、現在の権限者は誰だ。そしてこの、お前に繋がれている緑色の巨大な塊は何だ。教えてくれ」


『≪仮マスター≫クロードに、その質問に対する回答の開示は認められません』


「では質問を変える。≪仮マスター≫に認められている権限の範囲はどうなっている? この変な物体の製造の中止を命令するのは可能か?」


『≪仮マスター≫クロードに認められている権限は三つのみです。一つはこの施設への入場許可。そして二つ目は開示許可のある情報に関する質問権。三つめは最終ミッションの参加権のみとなります』


「最終ミッションとはなんだ?」


『現権限者から、私に課せられた最後のオペレーションであり、≪仮マスター≫クロードの万魔殿パンデモニウム到着によって最終ミッションは開始されます。最終ミッションは現在第一フェーズを進行中。まもなく第二フェーズに突入します』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る