第375話 現在のマスター

『ステータスに重大な異常を検出。精密検査と軌道修正のための修復が必要です。指定場所に向かい、必要な処置を受けてください』


≪恩寵≫時に現れるこのメッセージや記憶を引き換えにスキルが得られる謎の仕様については伏せたまま、クロードは≪機械神ゲームマスター≫が起動しているという十三個目の反応がある地点をエルヴィーラ、オディロンと共に三人のみで訪れた。


この地点にある≪機械神ゲームマスター≫は比較的状態が良かったが型が古く、後継機の登場によって耐用年数が来る前に起動停止された機体だった。


機械神ゲームマスター≫は地下にある万魔殿パンデモニウムと呼ばれる施設に設置されていて、その入り口は巧妙に隠されているらしい。

万魔殿には、パスワードを知る限られた人間しか入場することはできず、それゆえエルヴィーラたちを同行させる必要があったのだ。



魔境域北西部の鬱蒼とした森の奥に、その施設の入り口はあった。

一見何もないように見える山の斜面をエルヴィーラが歩み寄り、その異様に長い手指で触れると突然無機質なコンクリートのような材質の入り口が現れた。


「封印が破られた形跡はない。エルヴィーラ様、やはりセンサーと機器の故障でしょうか」


「そうであればいいのですが、何か嫌な予感がいたします。急ぎましょう」


エルヴィーラに扉のロックを解除してもらい、奥の昇降機で真直ぐ地下深くの施設に向かった。


「おかしい。やはり動力が何者かに復旧されている。この施設は生きているぞ」


独り言のように呟くオディロンにどういうことなのか聞くと、≪機械神ゲームマスター≫の起動停止が確認された後、施設全体を機能させる電力や魔導力の供給を停止させた後、厳重な封印が為されるのだが、この昇降機が稼働しているということは、その動力源が機能しているということであり、ありえないのだということだった。


もっともこの施設を封印したのはオディロンではなく、消滅の危機にあったルオ・ノタルに霊子エネルギーを捧げたエルヴィーラの仲間の古エルフ族であったそうだが、その当時確かに封印されたのを彼女も確認し憶えていたのだという。


万魔殿パンデモニウムの最深部は、かなり深かった。


降りていくほどに、得体のしれない音や気配が感じられて、この施設で何かが行われているのを確信した。


最深部につき、通路を行くと再びロック付きの近未来的なドアーに行き当たった。

近未来的というのはクロードが元にいた世界から見てという意味であり、この異世界の文明的には完全にオーバーテクノロジーである。


エルヴィーラがロックを解除しようと試みたがエラーとなり、何度試しても扉は開かなかった。


「E089211ADシステムよ。私が現在のマスターです。扉のロックを解除しなさい」


音声認識の機能もあるのか、エルヴィーラが扉に向かって話しかけた。


『そのオーダーは拒絶されます。現在のマスターは個体認識ナンバー0008エルヴィーラではありません』


施設内に無機質な女性を模した声が響く。

そして、その声にクロードは聞き覚えがあった。


これまでの恩寵発生時に聞こえてきた、あの声だった。




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