第372話 創世神ルオ・ノタルの残渣

新年から思わぬ慶事に幸せをかみしめることになったクロードではあったが、ブロフォスト共和国議員になったことでさらに多忙さに拍車がかかることになった。


もともとミッドランド連合王国とアウラディア王国の国王でもあったので、その仕事量は常人では到底こなせぬものであったのだが、ブロフォスト共和国議員になったことによる忙しさは今までとはまた違った形の多忙さであった。


この異世界の人族の社会においてクロードの存在と声望が少しずつ知られ始めた証拠であるのだが、とにかく面会希望者が多く、その数は日に日に増すばかりであった。


ブロフォストで商いをする者、陳情を抱えた者、ついには近隣の貴族領主までもがクロードとの個人的なつながりを求めて面会を求めるようになってきたのである。


中にはその武勇を聞きつけて、腕試しに立ち合いを希望する者たちまで出て来る始末だった。


クロードは、ベルクバーランド城のすぐ近くにある、今は主のいなくなった某貴族の別邸をヘルマンたちの勧めで、ブロフォスト滞在時の拠点に使っていたが、これらの面会希望者の対処に困ったため、引き払うことにした。


今は、ベルクバーランド城内の客間の一室を執務室兼住居として使わせてもらっている。


旧クローデン王国の祖クロード一世と同じ≪異界渡り≫にして、この世で並ぶ者無き超常能力者。

魔境域の王でもあり、いまや国内随一の商会となったレーム商会と太いパイプを持ち、自身も商会の会長を務める大富豪であるというクロードの素性に関する話がブロフォスト市民の噂話から、さらに尾ひれがついて近隣の領地にまで広まってしまっているようだった。


こうした状況にクロードは辟易していたが、悪いことばかりではなかった。


面会希望者たちの中には、クロードに召し抱えてもらおうと売り込みに来る者たちもいて、そうした者たちの中にはなかなかに有能な人材が多かったのである。


組織を運営するには多種多様な人材が必要で、魔境域からこのブロフォストまで幅広く活動しているクロードにとって、人材の確保は悩みの一つになっていたのだが、こちらから募集しなくても、向こうからつめかけてくれるこの状況は非常にありがたかった。



公人としての活動は、このように多忙ながらも順調と言っていい状況であったが、クロードにはそれら人間の営みとは少し離れた別の気がかりがあった。


先日、ピュクラーとの問答の際に触れたある話題によって掘り起こされたある懸念。


この異世界が絶えず力のある者による独裁によってしか統治しえない理由になっている「恩寵とスキルの存在」について話をしていた時に、何かを忘れているような気がしたが、最近ようやく思い出したのだ。


この異世界の人々に恩寵とスキルを与え、その経験値となる魔物を生み出す管理者的機械、すなわち≪機械神ゲームマスター≫のことを。


≪光の九柱神≫とルオネラを己が身に取り込み、この異世界の創世神ルオ・ノタルにまつわる全てが解決したと思い込んでいたのだが、そうではなかった。


創世神ルオ・ノタルの残渣はこの異世界に残り、主を失ったその機械は絶えず動き続けているのである。

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