第370話 シルヴィアの不調

ブロフォスト共和国の建国は、共和国議会議長兼執政官ピュクラーの署名入りの書状により、旧クローデン王国領各地の貴族領主たちに知らされた。


共和国議会議長は議員十三人による多数決投票により決められたが、クロードとヘルマンがピュクラーに投票したため、票が割れ、決選投票の結果、名士ミロラスフスを押さえて僅差でピュクラーが議長に選出された。


この結果にピュクラーは困惑し、恨み言をこぼしてはいたが、クロード達以外の議員からの強い説得もあって渋々承諾することになった。


やはり生粋のブロフォスト市民たちの間では、クローデン王国失墜の元凶とみなされるクロードに対して信頼しきれないところがあるらしく、その人物が共和国の首長となるよりは貴族出身で家柄の良いピュクラーの方が望ましいということであるようだった。


やはり血統主義による価値観は根強いものがある。

元貴族ということが、彼らにとってはかなり有利に働くようだった。


ピュクラーの書状を受け取った貴族たちの反応は様々だった。


ブロフォスト共和国の建国に賛意を示す者、ピュクラーのクローデン王国に対する謀反であると憤る者、静観を決め込む者など、対応は分かれた。


しかし、文章内にディーデリヒ公爵と接触し、利害関係の面で折り合ったという趣旨の内容を匂わせていたこともあって、何人かの貴族領主からは建国について好意的な内容の書状が届けられた。



国として動き出すともはや後には引き返すことができないこともあって、議員たちの結束は強まった。

時に議論が過熱し、激しく衝突することもあったが、このブロフォストを再興したいという気持ちは皆強く持ち合わせているようで、統治機構、税制、国防など国家の根幹をなす事項については、割合と早く定まった。


特に税制について、クロードからの申し出でアウラディア王国からの無期限無利子の借款が得られることになったため、当初の二年間は人頭税だけでなく、農業商業にかかる税の一切を無税とすることができた。


これは経済の立て直しの観点からそう決まったのだが、この話を聞きつけた近隣の領地から移住してくるものが後を絶たず、ブロフォスト近隣にある王領の農地などにも逃げた農民が戻ってくるなどの嬉しい誤算が数多くあった。



こうしたブロフォスト共和国の建国に協力しつつも、クロードはアウラディア王国及びミッドランド連合王国の王としての職務をこなし、多忙の日々を送っていた。


日に何度もブロフォストとアステリアを往復し、昼夜問わず精力的に活動し続けた。


慌ただしく充実した日々を過ごしていたクロードだったが、いくつか気がかりなことがあった。


シルヴィアがクロード付きの魔道士としての職をしばらく休みたいと申し出てきたのだ。

どこか具合でも悪いのかと尋ねても、歯切れが悪く、もうしばらく様子を見させてほしいと繰り返すばかりであった。


当然、房事も控えることとなり、毎夜シルヴィアが眠りにつくまで添い寝をするに留めておいたが、これはこれで幸福感と心の安らぎが感じられた。


クロード自身はほとんど眠りを必要としない体質になっていたので、寝台に横たわる必要など無かったのだが、彼女と二人で過ごすこのわずかな時間が何にも代えがたく、そうであるがゆえに、腕の中で眠る愛しいシルヴィアの健康のことが気がかりでならなかった。





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