第355話 銀狼のレリーフ
城の間取りなんてだいたい似たような感じだろうと軽い気持ちでいたが、イシュリーン城とはだいぶ異なる造りをしていた。
通路の至る所に身を潜めるための死角になるような場所や仕掛けが多くあり、あてもなく玉座の間を探していると何度も襲撃に遭ってしまう。
城内の警備をする人間の中に、到底
エルマーの話にあった人身売買を影で取り仕切っている組織の人間だろうか。
その他にも足音も無く襲撃してくるなど特殊な技能を持った個別の刺客のような者もいて、その都度対処を迫られた。
もっとも、クロードには≪五感強化≫により研ぎ澄まされた感覚に加えて、≪危険察知≫のスキルまで備わっているので、これらの奇襲的な襲撃などまるで意味の無いものであった。
自分に対して敵意や悪意を持った相手がどの辺りにいて、どの程度の脅威であるのかすべてわかるからだ。
圧倒的な能力値の差とチートともいえる数々のスキル。
この異世界においては、ほぼ無敵とまで言っても過言ではない存在になってしまっており、これほどまでに無計画に事を進めても何の問題も生じないのはこれらのおかげであるに過ぎなかった。
自分の考えが優れているからでも何でもない。
昔流行ったチートコードのように、パラメーターやシステムを改変し、緊張感がまるでなくなってしまったゲームをやって自己満足に浸っているようなものだ。
襲撃者の中から身なりの良さそうな者を捕まえ、道案内させると程なくリンデン商会の会長デトマールがいると思われる玉座の間にたどり着いた。
道すがら、その急造の道案内役に聞いたところデトマールは、普段はエグモント王が執務室として使っていた部屋を使用していたようであるが、大挙して城を包囲した群衆の姿を城塞の窓から見て、一部の幹部と腕利きの護衛と共に玉座の間に閉じこもり、そこから防衛の指示を出していたそうだ。
玉座の間の扉には、狼によって育てられたというクロード一世の寓話からか、銀で装飾された狼のレリーフが刻まれており、その鈍い輝きはその歴史の深さを
もし、扉が開かなければ蹴破るなどしなければならず、どうするか少し迷ったが、そうしているうちに扉はクロードの予想に反して、自ら左右に開きはじめた。
まるで何者かの訪れを喜んで迎え入れようとでもするかのように、ゆっくりと静かに。
室内には四、五十人くらいの呼吸音が聞こえたが、≪危険察知≫に引っかかるような強い悪意などは皆無であった。
罠の可能性もゼロではないなと内心警戒を強めつつ、クロードは道案内をさせた男をそこで離してやると一人で玉座の間に足を踏み入れた。
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